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リンカーン・ナビゲーター、正規輸入はじまる。


リンカーン・ナビゲーター
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LINCOLN NAVIGATOR



現代の幌馬車


フォード・ジャパンは5月から高級SUV、リンカーン・ナビゲーターの発売を開始。
アメリカの保守本流の価値観がここにある。
文=今尾直樹(本誌) 写真=望月浩彦


パワー・ランニング・ボード

 リンカーン・ナビゲーターは、日本だとでっかいどう、北海道向きである。全長は5mを30cm近くもはみだし、全幅は2mを超える。全高は1995mmもあって、シャープ兄弟ぐらいある。キャビンによじ登るのもタイヘンだ。そのため、ナビゲーターには「パワー・ランニング・ボード」というアシスト装置がついている。ドアを開けると、ステップがスーッと降りてくる。おかげでキャビンには楽々乗り込める。ドアを閉めると、ステップは自動的に格納される。その動きは滑らか、かつ静かで、高級車らしいと思わせる。
 エンジンは5.4リッターV8SOHCで、最高出力304ps/5000rpm、最大トルク50.5kgm/3750rpmを発揮する。いわゆるフロント・ミドシップ・レイアウトで、前後重量配分は52:48という良好な数値を誇る。
 足回りはモダンで、フロントがダブル・ウィッシュボーン、リアはマルチリンクという4輪独立懸架形式をとる。いかにも頑丈そうなラダー・フレームを持つものの、リンカーンはフォードの高級車ブランドであり、その外見から推し量れるように都会派なのだ。
リンカーン・ナビゲーター
フォード・エクスペディションをベースとするリンカーン初のSUVとして1998年に誕生。第3世代とされる現行モデルは07年登場。テーマは、「モダン・アメリカン・ラクシュアリー」の創造。全長×全幅×全高=5295×2035×1995mm。ホイールベース3020mm。車重2730kg。定員8名。内装はブラックのみで、シートは本革仕様となる。ボディ色は、ブラック、ベイパー・シルバー、ホワイト・スウェードの3色。タイヤはM+Sのピレリ・スコーピオンSTR。サイズはP275/55R20。価格は870万円。カイエンSのATより57万円お求めやすい。
 乗り心地はゆったりしている。ドライバーズ・シートは、クッションがたっぷりした、アメリカのホテルのロビーにあるようなフカフカのヤツで、いかにもアメリカ車らしい鷹揚な気分に浸れる。路面が荒れていると、20インチという巨大なタイヤに起因するのか、アンマされているみたいな振動がある。アンマされているみたいなのだから、いやな振動ではない。
 静粛性は高い。窓を開けているときと閉めているときで、排気音の聞こえ方がぜんぜん違う。遮音材がそうとう奢られているのだろう。静かなのだ。


リンカーン・ナビゲーター
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トラックであることを知らない姫君

 5.4リッターV8はトルキーで、フツウに走る分にはなんの問題もないけれど、速く走ることはほとんど拒絶される。鉄の意志をもってスロットルを踏み続けても、ちょっと気を抜くとすぐさまシフトアップして3000rpm以上回りたがらない。そもそもボア×ストロークが90.2×105.9mmというロング・ストローク型で、6段オートマチックのギア比は怖ろしく高い。1速が4.17なのは、これが4WDであることを思わせるけれど、2速以降は、2.34、1.52、1.14、0.86、0.69と続く。リバースは3.40、減速比は3.73である。100km/h巡航は6速トップで、1500rpmに過ぎない。
アメリカの法定速度以上のスピードに達すると、クルマが拒否するかのように俄然、不安定になる。
 ステアリングはロック・トゥ・ロック4回転と鈍くつくってあるけれど、交差点などで不用意に姿勢変化させると、グラッと大きくロールする。ナビゲーターにおいては、ステアリングさばきは慎重でなければならない。車重が2730kgもあるから、ブレーキは基本的に利かない、と心得るべきだ。飛び出すな、ナビゲーターは急に止まれない。
 ホイールベースは3020mmもある。だから、室内はたっぷりしている。3列目には乗り込みにくいが、座ってしまえば、大人でもガマンできるぐらいの広さを持つ。駆動方式は4駆と2駆を切り替えることができる。私は吝嗇家ゆえ、終始2駆で走った。すると、満タン法で6.5km/リッターも走ってしまった。燃料タンク容量は105リッターもあるから、航続距離は長い。
 つまるところ、リンカーン・ナビゲーターは、西部開拓民の末裔であるところのアメリカ合衆国市民にとって、現代の幌馬車なのだ。インターステーツの時速55マイルか65マイルをえんえん守って、広い国土を移動する。SUVをベースとする初代ナビゲーターが生まれて、はや10年。その洗練ぶりは見事で、最新モデルは自分がトラックであることを知らずに育った姫君のようなクルマだと思った。ヨーロッパ製高級車とは異なり、自由と平等の国、アメリカの高級車は依然、庶民的なのである。


リンカーン・ナビゲーター
写真左から。運転席・助手席はパワー・シート。黒革シートには茶のパイピング。レザーはソフト・タイプ。3列目に着座するには2列目を倒して乗り越えていくしかない。ボンネットを開けて見えるのはプラスティック素材のみ。1気筒当たり3バルブの5.4リッターV8はこの下に潜む。写真右端がドア開閉に連動する「パワー・ランニング・ボード」。



(2008年9月号掲載)
 
 
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