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本誌編集長、鈴木正文の「新・自動車評論」 第10回 フェラーリ458イタリア


FERRARI 458 ITALIA/フェラーリ 458 イタリア
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FERRARI 458 ITALIA



「より速く生きる」ことができる。
それは、余りに反時代的な、そして、超先進的な純スポーツカーだった!




昨年のパリ・サロンに登場したまったく新しいV8フェラーリ、458イタリアがようやく日本に上陸した(車両本体価格2830万円)。あざやかなイエロウの1台を、本誌編集長はどう見たか?

文=鈴木正文(本誌) 写真=望月浩彦



けやき坂の朝

 試乗の出発点は、メガロポリス東京の、ITバブル華やかなりしころの虚栄の中心、東京・六本木ヒルズの名高いブランド・ストリート、けやき坂だった。マラネロの日本支社は六本木ヒルズにあるのだ。
 ここでかつて、フェラーリと名のつくクルマとそれに乗る者は、嫉妬と羨望、憎悪と軽蔑、そしてときに畏怖と賞賛に曇ったまなざしを向けられた。虚栄のためでなく情熱のためにそれに乗る者も、また。
 バブルがはじけ飛んだいまも、「まなざし」の事情は、さして変わっていない。ただ、それを平然と受け止める「虚栄」と「情熱」の側の覇気が低下しただけだ。時代の空気は、放埓ではなく謹厳を、奢侈ではなく清貧を、官能への憧憬ではなくそれへの怖れを呼吸している。
 そしてここに、放埓と奢侈と官能の権化として、あるいは形をとったイエロウの波打つ感情として、1台のフェラーリがあった。
西伊豆のワインディング・ロードを走る
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西伊豆のワインディング・ロードを走る。ステアリング・トップでアップシフトを促す赤いライトが5つ点灯しているのが見えるだろうか。撮影のためにあえてギアを1速に固定している。70km/hが1速のリミットである。2速は110km/hまで伸びる。
 7月中旬の早朝、燃えさかる夏の太陽の過剰なエネルギーは、温度計の針を摂氏30度に急速に押し上げたが、この通りを行き交う人々の生への欲望は、むしろ萎えていた。すべてがうなだれている。
 それでも、フェラーリ・ジャパン所有の458イタリアのテスト・カーに乗り込むとき、あの「まなざし」をあたりに探したのは、この美しいフェラーリを前にした幸福な僕の興奮のせいだ。しかし、好奇の目には出合わなかった。
 カントによれば、美とは「関心なしに快いもの」だそうだ。しかし、スタンダールによれば、美は「幸福の約束」である。ニーチェは美についてのこの2つの観点を並べたうえでいう。「もしわが美学者たちがカントに味方して、美の魔力の下でなら一糸まとわぬ女人の立像すら“関心なし”に眺められうると、どこどこまでも主張してやまないとならば、彼らの無駄骨のほどをちょっぴり憫笑してやるがよいであろう」(『道徳の系譜』)と。
 しかし、けやき坂はカント主義者に明け渡されていた。

六本木から首都高へ

 六本木通りに出るために最初のT字路を右折しようとして、ステアリング・コラムのターン・シグナル・レバーを探した左手は空振りした。昨年末にマラネロで乗ったときのこウエブリンクとを思い出した。458イタリアのイノヴェーションのひとつは、ターン・シグナルを含む使用頻度の高い操作類がすべて、ステアリング・ホイール上に配置されていることだった、と。だから、430より大きくなった操作しやすいシフト・パドル以外に、コラムに付属するレバー類はなにもない。方向指示灯のスイッチは、F40同様、センター・パッドの両サイドのスポーク上にある。
FERRARI 458 ITALIA/フェラーリ 458 イタリア
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 この458には、カリフォルニアで初採用された2ペダル7段マニュアルの「F1デュアル・クラッチ・トランスミッション」(DCT)だけが載る。このDCTはあきらかに、カリフォルニアのそれと制御が違う。変速中、エンジン・トルクの駆動輪への伝達が途切れることがない。カリフォルニアのDCTの変速はすばらしくスムーズだったという記憶があるが、458のシフトはそのレベルをこえている。独立して制御される奇数ギアと偶数ギア用の2本の入力シャフトが、2つのクラッチの締結/開放の動作が重なる時間をゼロにしている。変速時間がゼロなのだ。
 オート・シフト・モードで街路を行くと、40km/hでもう4速に入っている。50km/hでは6速、60km/hで7速トップだ。変速したことは耳で知る。トルクが切れないからショックがまったくない。狐につままれたみたいだった。
 リッター127psというロード・カーとしてはあり得ない高比出力を発揮するこの自然吸気の4.5リッター、570ps/9000rpmのV8は、540Nm(55.1kgm)/6000rpmの最大トルクの80%を、すでに3250rpmで得るというフレキシビリティを備えるから、高いギアに低い回転という状況でも、いや、いつでも十分以上の力がある。それに、少しでも右足を沈めれば、瞬時に太いトルク・バンドのど真ん中を使えるギアにまで、シフト・ダウンしている。ロード・カーにこれに比肩できるシフトを持つクルマは1台もない。隔絶した高みにある驚異のギアボックスだ。

FERRARI 458 ITALIA/フェラーリ 458 イタリア
運転に必要な全操作類はステアリングから手を離さずにリーチできる
運転に必要な全操作類はステアリングから手を離さずにリーチできる。ステアリング左右にサテライト・ポッドがあり、左側のスイッチで操作すると、回転計左のTFT画面に車両の状態が表示される。右側はナビ、音楽、速度計などを切り替え表示する。



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