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ついに姿を見せた「トヨタ86」のプロトタイプに乗る。


TOYOTA 86/トヨタ86
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TOYOTA 86/トヨタ86
空力を重視してボディ・ラインの大部分をデザインしたという。ルーフの凹みもそのためで、単にダウンフォースを出すだけでなく、上下左右からクルマを包み込みながら安定させるのだとか。

***

走りに“味”がある。


2009年の東京モーターショウに最初のプロトタイプが
登場してから2年。ついにハチロクに乗れる日がやってきた。
文=村上 政(本誌) 写真=柏田芳敬



 トヨタから「小型FRスポーツ」プロトタイプ試乗会の案内が来たのは10月半ばのことだった。そして、伊豆サイクルスポーツ・センターで乗ったのが10月末。だが、記事解禁日が11月27日と決められていたため、たった1日の差で26日発売の先月号への掲載を見送らざるを得なかった。
 なぜトヨタが27日にこだわったかと言えば、この日、富士スピードウェイで開かれたガズー・レーシング・フェスティバルで、豊田章男社長の運転により、FT86改め「86」という名前とともにお披露目することが決まっていたからだ。
 その後、東京モーターショウにも出展されたから、すでに実物を目の当たりにした読者も多いだろう。中には、スバル・ブースの「BRZ」と行ったり来たりして、どっちがカッコイイかを確かめた熱心なスポーツカー・ファンもいるに違いない。
 実はこの2台、前後バンパーとライトまわりのデザインを除いては、中身も含めてまったく同じクルマだと言っていい。違うのは足まわりの微妙なセッティングくらい、という情報も聞こえてくる。製造するのはどちらも群馬県太田市にあるスバルの工場で、すでに生産終了したサンバーのラインが仕立て直して使われることになるらしい。
 すなわち、企画がトヨタで、製品化がスバルという役割分担で共同開発した双子車になっているのだ。
11月27日に富士スピードウェイ

86の最終プロトタイプは、11月27日に富士スピードウェイで開かれたガズー・レーシング・フェスティバルで、豊田章男社長自らの運転によりお披露目された。写真右の人物はチーフ・エンジニアの多田哲哉氏。

チーフ・エンジニアの多田哲哉氏



ケイマンより低い重心高

 トヨタで開発を担当したチーフ・エンジニアの多田哲哉氏の解説によれば、3台の印象的なトヨタ車からインスピレーションを得て、86は生まれたのだという。すなわち、580kgの軽量ボディに水平対向エンジンを積んだFR車だった“ヨタハチ”ことスポーツ800。均整のとれた美しいプロポーションを持ち、トヨタのスポーツカーのレベルを世界級に押し上げた2000GT。そして、名前の由来にもなった“ハチロク”ことAE86の3台である。
中央に鎮座する大型回転計のレッド・ゾーンは7500rpmから
中央に鎮座する大型回転計のレッド・ゾーンは7500rpmから。
 2007〜8年に開発を始めた当時から、ターボ、4WD、ハイグリップ・タイヤを使った超高性能スポーツカーではなく、自らコントロールして楽しめる、ノンターボ、FRでタイヤにたよらない軽量コンパクトなスポーツカーづくりを目指した。とりわけ重視したのは低重心、低慣性なパッケージで、それを実現するために、フロントに水平対向エンジンをミドシップし、後輪を駆動するレイアウトが採用されたのである。
 実際のところ、86の重心高は、ポルシェ・カレラGTにこそ及ばないものの、ケイマンより低くなっているというから驚きである。座面の低さも特筆もので地上高は400mm。運転席に座りながら地面でタバコの火を消せるようにしようというのが目標だったのだとか。
 一方、2シーターではなく、2プラス2の室内レイアウトにこだわったのは、サーキット走行に必要なタイヤ4本を搭載できるだけのスペースを確保するためだったという。
 こうして生まれた86は、全体の91%が専用パーツという特別なクルマに仕上がった。車重は1190kgほどというから十分に軽い。
 常に脇に2000GTを置きながら仕上げたというデザインは、最初のプロトタイプが持っていたような鮮烈な印象からはかけ離れた大人しいものになったが、それでもいかにもFRスポーツカーらしい均整のとれたプロポーションを持っている。

インテリア・デザインはスポーツカーらしくシンプルにまとめられていて好感が持てる
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ニュルブルクリンクを走って研究開発したツー・トーンの専用バケット
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インテリア・デザインはスポーツカーらしくシンプルにまとめられていて好感が持てる。真円にこだわって設計されたステアリング・ホイールや小さいけれど後方視界を犠牲にしないルームミラーなど多くの専用パーツを使っている。


シートも、ニュルブルクリンクを走って研究開発したツー・トーンの専用バケットだ。

自然で気持ちいいボディの動き

 伊豆サイクルスポーツ・センターでの試乗会は、1周約5kmのロード・コースをスキール音、ドリフト走行禁止で走る方法で行なわれた。
 最初に乗ったのは白いボディ・カラーの6段AT仕様。走り始めてすぐに、エクゾースト・ノートが素晴しいのに驚いた。かなりチューニングされているようで、低くくぐもったスポーツカーらしいサウンドが室内にも響いてくる。
 だが、それ以上に素晴しいのはステアリング・フィールとハンドリングだ。重からず軽からずの適度な手応えがあるステアリングからは、路面の様子が鮮明に伝わってくる。一方、ハンドリングがいいのは、重心が低いことと深く関係しているに違いない。運転していると、ちょっとしたクルマの動きから、重心が思い切り低くなっていることがわかる。ステアリング操作した時のボディの動きが自然で気持ちいい。着座位置も低いし、シートの座り心地やホールド感もいいから、常にクルマとの一体感がある。これは長期リポート車のマツダ・ロードスターより、かなりいいクルマかも知れないぞ、と思うと、徐々に感動がこみ上げ、なんだか無性にうれしくなってきた。
 スバル製のフラット4にトヨタの直噴技術を組み合わせたというエンジンも、しっかりとパワー&トルクが出ている。回すとかなりガサツな騒音を立てるのはいかにもスバル製エンジンらしいが、あまり回さなくても気持ち良く走れるので気にならない。レッド・ゾーンは7500回転からだが、せいぜい5500回転くらいでシフト・アップしていった方が気持ち良く走れるように思った。
 6段トルコンATは、スポーツ・モードを選ぶとかなり派手なブリッピングを見せる。ここまでしなくてもいいとも思うのだけれど、別に悪くはない。パドルもついているし、コンフォートとスポーティが両立している。下手なツイン・クラッチよりトルコンの方がいいと私は思う。
フロント・ミドに搭載されるエンジン
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フロント・ミドに搭載されるエンジンは、スバルのフラット4をベースにトヨタの最新直噴技術を組み合わせており、12.5対1の高圧縮比を実現している。

 次に赤い6段MT仕様に乗り換えると、ちょっと印象が違った。エンジンのがさつな音が目立つ。ストローク短く、カチッと入る6段MTのシフト・フィールは良好だし、ハンドリングもいいのだが、スポーツ・モードでも少し飛ばすと、すぐにトラクション・コントロールが介入してくるのに戸惑った。コーナーからの立ち上がりでアクセレレーターを開けると、すぐにガガガとブレーキをかけてくる。これではあまり面白くない。自動姿勢安定装置のチューニングを見直す必要があるだろう。
 最後に乗ったダークグレーのAT車の印象もまた違っており、必ずしもセッティングがピシッと決まっているわけではなさそうだ。しかし、そういう詰めの不足を除けば、全体として実に味わいのあるスポーツカーに仕上がっているのは間違いない。レクサスLFAも素晴らしかったが、誰でも手が届くという意味では86の方がずっと重要だ。トヨタもやれば出来るじゃないか、と言ったら失礼かも知れないが、正直、素直に拍手を送りたいと思った。


富士のショート・コースにて
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富士のショート・コースにて。均整のとれたプロポーションを持っていることがわかる。

常にクルマとの一体感がある
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常にクルマとの一体感がある。

  
 トヨタ86プロトタイプ
駆動方式エンジン・フロント縦置き後輪駆動
全長×全幅×全高4240×1775×1300mm(ルーフ高:1285mm)
ホイールベース2570mm
車両重量未発表
エンジン形式水平対向4気筒 直噴DOHC
排気量1998cc
ボア×ストローク86×86mm
最高出力200ps/7000rpm
最大トルク20.9kgm/6600rpm
トランスミッション6段MT/6段AT
サスペンション(前)ストラット/コイル
サスペンション(後)ダブルウィッシュボーン/コイル
ブレーキ(前後)通気冷却式ディスク
タイヤ(前)215/40R18、(後)225/40R18
車両本体価格未発表





(2012年2月号掲載)
 
 
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予めご了承くださいますようお願い申しあげます。



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