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4人乗り4輪駆動のFFは、フェラーリのGTの明日を示すマイルストーンである。


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Ferrari FF



天才的!


フェラーリの4座4輪駆動グラントゥリズモ、FFがついに上陸した。広報車両が用意されたのを聞きつけて、
いのいちに試乗に臨むと、ほとんど評論を受け付けないような完成度の高さでわれわれを圧倒した。FFは、超高級、超高速、全天候対応型の超絶的な“実用車”である。
話す人=鈴木正文+村上 政+齋藤浩之(すべて本誌) 写真=望月浩彦





スズキ ようやくというのかな、待望のフェラーリFFがここに上陸なって、日本の道でテスト・カーに今日乗ることができた。齋藤君は国際試乗会ですでに乗っているよね。
齋藤 ドイツとイタリアの国境にあるチロルの山岳路で乗ることができました。本当はイタリア空軍が大型ヘリコプターを使ってスキー場へ運んだウィンター・タイヤ付きのFFで雪上ドライブを堪能できる予定だったんですが、突然の大幅な気温上昇で雪が融けてしまって、それは叶わなかったんです。FFのもうひとつの、というかGTカーとしての本分である高速性能を存分に試せるステージもなかったので、ちょっと欲求不満な感じではあったんですが、大型の4WDカーであることの不利を微塵も感じさせない素晴らしいハンドリング性能の片鱗を覗くことができたのは幸せでした。

舞踏会ではなくゲレンデへ

スズキ フェラーリは、フェラーリを走らせるには到底理想的とは思えない条件下でローンチ・イヴェントをやったわけだよね。彼らの意図どおりの条件で試乗することは残念ながらできなかったわけだけれど。
齋藤 そうです。
スズキ FFはフェラーリのフラッグシップ・クーペというべきクルマだよね。先祖は新しいほうから遡っていくと、612スカリエッティ、456、その前は400/412系、さらには365GTCということになる。伝統的に2+2の系譜にある、俗に言うドレッシィ・フェラーリ。ドレッシィ・フェラーリは、それで舞踏会に乗りつけるというのならともかく、アルプスのゲレンデに行くというは、これいかに。
齋藤 フェラーリはF355以降、積極的に電子制御技術を彼らの市販車に投入してきたわけです。ABS/EBD、ESC、F1-Trac、E-Diffといったものですね。運転支援装置です。フォーミュラ1で培った最先端のノウハウを転用してきた。その結果、ウェット路面でも、かなりの安定性、安定性回復能力を手にしました。でも、それがフロント・エンジンのモデルであれ、ミドシップ・エンジンのモデルであれ、積雪路や凍結路への適応能力を手にするまでにはいたらなかった。考えてみれば当然ですよね。路面の摩擦係数が決定的に小さい、つまり極端に滑りやすい、駆動力を伝達するのが難しい状況なわけですから、後輪だけにトラクションを期待するシステムでは無理なわけです。フェラーリは、全天候適応力を手にせずしてこの運転支援技術の完成なし、という目標を掲げてまい進してきた。その目標が、画期的な4WD機構の独自開発によって実現することになった。それを初めて導入するのがこのクルマということで、舞踏会ではなく、ゲレンデでのテストということになったんです。彼らは仕上がりに自信満々なんですよ。
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後輪に1tを超える静的荷重がかかっているだけに、まるでミドシップ・カーのように絶大なトラクションがかかる。舗装路面ではミシュランのパイロット・スーパー・スポーツの強大なグリップを打ち負かすことなど到底難しく、したがってほとんどの場面で2輪駆動のまま走る。ホイールベースは長いものの、それを感じさせない素晴らしいハンドリングが実現されているのもすごい。660psのパワーはどんな状況でも桁違いの速さを生み出す。
スズキ なるほどね。
齋藤 それと、背景として、ロシアや中国、インドといった新興マーケットでの競争力を獲得する必要があった。こうした国々は、これまでフェラーリが伝統的に強かった北米やヨーロッパとは気候、道路環境がずいぶんと違っているわけですから。
スズキ モスクワはともかく、サンクトペテルブルクは寒いよ。北京の冬も厳しいものがある。
齋藤 で、悪条件下でのトラクション性能を上げるには4輪駆動化しかないとなった。フェラーリは過去にも、ミドシップ・エンジンの実験車両で4WDを試みたことがありますが、それとも全く異なる、独自の機構を開発した。FFはノーズに収めたV型12気筒エンジンのクランクシャフト後端から取り出した回転力をリアのトランスアクスル変速機に伝え、後輪を駆動するFRレイアウトがベースになっています。ところが、V12のクランクシャフト前端からも回転力を取り出して、エンジン前部に接合された前進2段変速のギアボックスを経たトルクが、左右輪に個別に用意された油圧多板クラッチを介して、ホイールに伝えられます。前後アクスル間の回転差の吸収や、フロント・ディフの役目、伝達トルクの調整のすべてを、この2組の電子制御多板クラッチが担うんです。制御はF1-TracやE-Diffと統合して行われる。で、前輪への動力伝達は、後輪の駆動力伝達能力がリミットに達して、ドライバーの要求する駆動力を伝えきれなくなって初めて行われる。これは緻密にコントロールされたオン・デマンド4WDなんです。後輪用の主変速機が1速もしくは2速にある時はフロントは低速側のギアが、後輪が3速か4速にあるときは高速側のギアが選択されてトラクションを補強する。4速の上限速度は200km/hを超えるので、悪条件下での走行状況を十二分にカバーするという判断です。5速から上ではシステムが完全に切り離されるようになっています。
スズキ 普通に走っているときは後輪だけの2輪駆動ということだね。誰の真似でもない。いままでどこにもなかったシステムだ。
齋藤 モンテゼモロ会長は常々言っていますよね。フェラーリはフォロワーにはならない。いつもイノヴェーターでいるんだ、って。有言実行を証明していますよね。あ、それと、4座フェラーリGTは今後すべて、このPTU(パワー・トランスファー・ユニット)を使う4WDになるそうです。つまり、カリフォルニアの後継モデルもこのシステムを使う。
スズキ 2座は2WDというわけだ。
齋藤 今後も2駆でいくと言ってました。カタログ・モデル、限定モデルを問わずに。12気筒、8気筒とも。

いままでにない4WD

スズキ エンジンはV12なわけだけれど、これは599用の進化型?
齋藤 そうです。Vバンク角が65度のやつです。ボアを少し拡げて排気量が6.3リッターになっています。それとカリフォルニア、458イタリアに続いて燃料供給が直噴式になっています。8000rpmで660psを出し、最大トルクは69.6kgmに達します。常用回転上限は8200rpmです。V10時代のF1用に1万9000rpmが可能な直噴システムの開発に成功していただけのことはあります。
スズキ メインの変速機は?
齋藤 V12エンジンでは世界初の例となるツイン・クラッチ式の7段型トランスアクスルが投入されています。トルクチューブを使わないで、エンジンとはオープン・プロペラ・シャフトで繋がれています。
スズキ こともなげに最新のテクノロジーを一挙に投入している。フェラーリの技術力の凄さを感じるね。考え方もオリジナルだ。1980年代のアウディ・クワトロに始まる高速4WDの流れに照らしても、どれとも違う。ポルシェや日産とも違う。
齋藤 4WD化による重量増はライバル比で半分だそうです。もちろん、そのおかげで、前後の重量配分もフェラーリの好みどおり、リアにバイアスのかかったものになっています。47対53かな。日本の車検証重量で見ても、48対52を保っています。
(下)テールゲート!を空けると、450リッターもの容量を誇る荷室がそこに。外からは目隠しされて内容物は一切見えない。
スズキ じつにスマートだ。
村上 まるでコロンブスの卵。見せられて初めて、あっ、その手があったかと思う。完全なフロント・ミドシップ以外では実現不可能な機構だ。
スズキ 既成のものに囚われていないよね。まさに天才的だな。
齋藤 ルネッサンスの国ならではの発想だと思いました。
村上 超高速安定性を確保するために4WD化するのが定石だったところへ、それとは全く違う発想の4WDを投入してきたわけだからね。
齋藤 6リッター超の12気筒による完全フロント・ミドシップ、完全な4座、大きな荷室を考えると、4.9mという全長は奇跡的に短い。
スズキ しかも、それを可能にしたコーダ・トロンカ風のテール・エンドの処理は、空力的にも好ましいはずだ。最高速度が335km/hに達するクルマにして、リアのディフューザーを除くと、これみよがしな空力付加物がないのがその証でしょ。
齋藤 リアの左右2個ずつのスリットから気流を出して、境界層の剥離をコントロールしていたりと、ここでも最先端。だてにF1からの技術転用を謳っていないと思います。

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評論を否定するデキのよさ

スズキ そういう自動車テクノロジーの最前線にあるクルマが、乗ってみたら、じつに素晴らしかった。
村上 先月、ランボルギーニのアヴェンタドールとレクサスのLFAに乗って、どっちもすごく良いクルマだなと思ったんですが、FFに乗って仰天した。驚異的な洗練。先月の2台がかなり乱暴なものに思えてしまう。あの2台だって、そうとうに洗練されていたのに、フェラーリのFFは遥か上をいく。びっくりした。あの2台と同じ速度を、あっけなく穏やかな表情でこなしてしまう。
齋藤 スピード感のなさが脅威。免許証がすぐになくなってしまいます。
村上 フェラーリってF430あたりからデキがめちゃくちゃ良くなったと思っているんですけど、やっぱり、エンツォ・フェラーリを作った経験がいかんなく発揮されているような気がしてならないんです。
スズキ フェラーリはレーシング・テクノロジーの最前線にいる強みが本当に活かされている。開発が速い。それにしても、エンジンの魅力が抜群だね。ストレスなく8200rpmまで回り、適度にミュートされたサウンドが響く。大人しく走れば驚くほど静かで、ひとたび踏み込めば、電光石火の反応でパパパッとシフトダウンして、タメなしにダッシュする。
村上 野蛮な荒々しさ一切なし。
齋藤 もったいぶったところがないのに発揮される実力が図抜けている。
スズキ 助走なしにハイジャンプするかのようなところがある。
齋藤 それをスーツ姿でやる。運動着に着替えない。2t近い重さがあるとはとうてい思えない動き。
村上 身のこなしが軽やか。乗り心地も素晴らしい。非の打ち所がない。
スズキ FFは評論というものを否定するような高みに達している。ヴェイロン、GT-R、そして、FF。4WDの金字塔だね、FFは。

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思わずため息が出る、上質至極のインテリア。革シートもとくべつ高級なそれで、風合い、肌触り、座り心地ともに極上。スペースの余裕は大したもので、前席なら195cm、後席は185cmの人が不都合なく過ごせるように空間設計が施されている。

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 フェラーリ FF
駆動方式フロント縦置きエンジン4輪駆動
全長×全幅×全高4907×1953×1379mm
ホイールベース2990mm
トレッド 前/後1676/1660mm
車両重量[車検証](乾燥)1970kg(1790kg)
エンジン形式自然吸気直噴65度V型12気筒DOHC48バルブ
総排気量6262cc
最高出力660ps/8000rpm
最大トルク69.6kgm/6000rpm
変速機デュアル・クラッチ式7段変速機
サスペンション形式 前ダブルウィッシュボーン/コイル
サスペンション形式 後マルチリンク/コイル
ブレーキ 前後通気冷却式ディスク(CCM3)
タイヤ 前/後245/35ZR20/295/35ZR20
車両価格3200万円







(2012年2月号掲載)
 
 
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バックナンバーページの定価表記について
「ENGINE 2014年3月号」以前の定価表記は、発売時の定価になっております。
予めご了承くださいますようお願い申しあげます。



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