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見目麗しいイヴォークは、乗れば間違いなくランドローバーの一族になっていた。


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●コンセプト・カー“LRX”を忠実に市販化。
●3ドアのクーペと5ドア、ともに上陸。
●日本仕様は2リッター直4+6段AT。もちろん4WD。
●クーペは470〜598万円、5ドアは450〜578万円。


老舗の労作


料理の決め手になるのは、なんといっても素材のよさだ。
しかしよい素材をほんとうに活かすには、技が必要になる。
文=上田純一郎(本誌) 写真=柏田芳敬



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試乗車は写真右列がクーペの上級版“ダイナミック”、写真左列が5ドアのエントリー仕様“ピュア”。2台を横から眺めると、ショルダー・ラインまでは同じだが、ルーフ・ラインの傾きが大きく異なるのが分かる。タイヤ・サイズはダイナミックが245/45R20。ピュアは225/65R17が標準で、オプションで18または19インチは選択できるが、20インチは選べない。室内の仕立ては基本的に共通だが、上級グレードはシート表皮がファブリック/レザーのデュオ・トーンからフル・レザーになるほか、トリムの選択肢が増え、高級感が増す。4WD機構はハルデックス・カップリングを使うオン・デマンド式。イヴォーク・クーペのスペックは以下の通り。全長×全幅×全高=4355×1900×1605 (1635)mm ホイールベース=2660mm 車両重量=1730(1760)kg エンジン=直列4気筒DOHCターボ 最高出力=240ps/5500rpm 最大トルク=34.7kgm/1750rpm。※( )内は5ドア。
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まるでスーパーカー!

 前を走るライム・グリーンのイヴォーク・クーペ“ダイナミック”は、朝陽を浴びてキラキラ輝いていた。 まわりのクルマや景色が、なんだか色褪せて、古びて見えた。モーター・ショウの会場に搬入されるはずのコンセプト・カーが、間違って路上に飛び出したみたいだ。60年代にスーパーカーが街へ出た時って、こんな感じじゃなかったのかな。ふと、そんなふうに思った。
 
 フェンダー・アーチにそって細い樹脂パーツが付いているから、遠目には245/45R20サイズのタイヤがさらに大きく見える。撮影に同行したシオザワさんは「クルマは格好だよ、断然クーペでしょ」と、もう1台の5ドアのイヴォーク“ピュア”を尻目に独りごちた。そういえば彼の愛車は前期型のフィアット・ムルティプラだったっけ……。
 ライム・グリーンのイヴォークに比べると、ほとんど黒に見える濃い青のせいか、5ドアのピュアはいささか地味だった。タイヤ・サイズは225/65R17で、2台が並ぶともの足りない気がする。でも「色が反対なら、そうでもないな」と僕は心の中で弁護した。ピュアの方が、試乗しているうちにずっと好ましくなっていたからだ。
素材と調理法

 イヴォークのベースになったのはフリーランダー2である。昨年末に800kmほど試乗して、その優秀さを改めて実感した。視点が高く、車体の四隅が把握し易く、車幅が1910mmもあるのに取り回しはビックリするほど楽だった。背筋を伸ばして座るシートはたっぷりとしたサイズで身体をよく支え、渋滞にはまりながら8時間以上走り続けても疲れなかった。どんな悪路でも前へ進むためには、いかに人を疲れさせないかも重要だ。フリーランダー2はランドローバーのノウハウが詰まった、優れた実用車だ、と思う。
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 乱暴に言ってしまえばイヴォークはそんなフリーランダー2のチョップド・トップである。コンセプト・カー“LRX”を忠実に再現するため、屋根はクーペで135mmも下げられた。これでは人の頭が天井を突き抜けてしまうから、室内フロアも27mm下げた。とうぜん地面とのクリアランスは減るが、悪路走破性に一家言ある老舗の看板が許さなかった。床下のメカニカル・コンポーネンツを再配置するなどし、最低地上高210mmを確保。渡河水深限界は500mmだ。これはフリーランダー2とまったく同じである。
 上からも下からもしわ寄せが来るから、居住スペースは必然的に狭くなる。特にクーペの後席は、外から小さなガラス・エリアを見たら、絶望的に狭そうに見える。ところが座ってみるとさにあらず。広くはないが、ちゃんと座れる。ヘッド・クリアランスは最低限確保されているし、座面の厚みもちゃんとあって、想像よりずっと快適だ。
 むしろイヴォークに乗り込んで気になったのは前席の方だ。着座位置は低く、背もたれをやや寝かせて座るレイアウトになっている。併せて、シートは上体よりも腰まわりを強めにサポートするようになっている。
 ランドローバー社の手がけるクルマは実用を旨とし、伝統的に高い位置からまわりを見下ろせるように人を座らせてきたが、イヴォークのシートはスポーツカーみたいだ。なぜか。こういう仕立てにしないと、クーペは頭がつかえてしまうのだ。オプションのガラス・ルーフを装備していたせいもあって、シートの高さは一番下で丁度よいくらい。本当はもっと上げて、肩の位置をショルダー・ラインの少し上にしたいが、サン・バイザーが目前に迫ってくる。
 いっぽうピュアは、調整しろがちゃんと活きていた。ノーマル・ルーフということもあって、シートの高さが一番下だと頭上はスカスカ。シートを上げるゆとりが十分ある。クーペと5ドアの全高は1605mmと1635mmで、差はわずか3cmしかないが、その3cmが大きい。取り回しがし易く、車体を把握し易いのはもちろんピュアの方である。
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新しい調味料


 帰路はピュアからクーペ・ダイナミックに乗り換えた。メーター横のスターター・ボタンを押すと、ブルン、と軽く身震いしてフォード製の2リッター4気筒ターボ・ユニットが目覚めた。フリーランダー2の自然吸気の3.2リッター6気筒ほど静かでもスムーズでもないけれど、振動や騒音は上手に抑えられている。レインジ・ローバーを名のるだけことはある。
 この4気筒はエンジン単体で6気筒より40kg軽い。車重はアルミのボンネットやリア・ゲート、樹脂のフェンダーなどの採用でフリーランダー2よりクーペで170kg、5ドアでも140kg軽い。最高出力は8ps、最大トルクは2.4kgm上回り、240psと34.7kgmだ。
 身のこなしは俊敏といっていい。 フリーランダー2も身のこなしはキビキビとしていたけれど、イヴォークはさらに動きが鋭い。ステアリング・ホイールと一体のパドル・シフトを操作し、6段ATのマニュアル・モードで回転を上げていくと、3500rpmを超えたあたりからぐっと音が勇ましくなる。
 クーペ・ダイナミックにはマグネライドというオプションの電子制御式の連続可変ダンパーが付いていた。 街中では20インチを履いているとは思えないほど乗り心地がイイが、17インチのピュアの機械式も負けていない。小さな突き上げが続くようなシーンでは、むしろピュアのあたりの柔らかさに好感が持てた。状況に応じて(1)オンロード(2)草/砂利/雪(3)泥/轍(4)砂地とセッティングを切り換えられるテレイン・レスポンスは全車標準装備だが、マグネライドがあると(5)ダイナミックも選択できる。メーターが赤く光る演出はいいけれど、不整を拾うと硬すぎてばたついた。(1)で十分ではないか。
 ランドローバーはよい素材を元に、イヴォークの素晴らしい外観を作りあげた。そのために生じた不都合は、丁寧に1つ1つ抑えられている。クーペ・ダイナミックのまるでシューティング・ブレークのようなルーフ・ラインや、大径ホイールに憧れる気持ちはよく分かる。けれど、5ドアのピュアにこそ、老舗の技が強く込められているな、と僕は思った。


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(2012年5月号掲載)
 
 
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バックナンバーページの定価表記について
「ENGINE 2014年3月号」以前の定価表記は、発売時の定価になっております。
予めご了承くださいますようお願い申しあげます。



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