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2台のアルピナ“S”に乗る。


BMW ALPINA B3 S & B10 V8 S



クルマにとって上質とはなにか、の解答。


アルピナにとって“S”の称号は、そのシリーズの最終完成型を意味するという。磨きに磨き込まれて、今まさに円熟の時を迎えた2台に同時試乗してみた。


文=村上 政(本誌) 写真=小宮岩男

 今年1月にエンジン編集部が主催した大試乗会で、アルピナのことを、「常識の理解を超えた感触の一級品」と評した年若いモーター・ジャーナリストがいた。誠に言い得て妙だと思う。彼はその滑らかな乗り味にノック・アウトされ、「まるで年上の女性の虜になってしまったような気分」とも書いていた。その気持ちが手に取るようによくわかる。なぜなら、私もほぼ同じ情熱をアルピナに対して持ち続けているからだ。
 クルマをめぐるジャーナリズムの世界に身を置いていても、年産わずか800台の、スペシャル中のスペシャルともいうべきアルピナに乗る機会というのは、そう訪れるものではない。ましてや、週刊誌記者から転じてまだ3年にも満たない私のような新参者には、よほどの幸運がない限り巡ってくるものではない。
 それだけに一昨年、初めてB3 3.3に乗った時の印象は、今でも鮮明に私の身体に刻み込まれている。ステアリングを切り込んでいく時の、えも言われぬしっとりとした感触。あるいは、アクセレレーターを踏み込んでいく時の、ウルトラ・スムーズでありながら、どこか湿った粘り気のある吹け上がり感――。


 今回、再びアルピナ車に乗る機会を得た私は、誠に果報者だと思う。しかも、今回の試乗車は2台の“S”。 すなわち、BMWの3シリーズをベースとするB3と、5シリーズをベースとするB10の現行モデルにおける最終完成型である。そもそもが絶品といえるBMW車の性能を、さらに磨き上げて作られるアルピナ車の現在における頂点。その“感触”を、じっくりと堪能することができた。


すべてアルピナB3S。
すべてアルピナB3S。
(写真左))内装のデザインは基本的に3シリーズと同じだが、アルピナ・カラーの青と緑の糸で手縫いされた革巻きステアリング・ホイールや、アルピナのマークが入った木製シフトノブなどが、上質感を漂わせる。
(写真中)シートにもアルピナ・カラーのストライプ。
(写真右上)ボアを0.6mm拡大し、これまでの3.3リッターから3.4リッターになった直6DOHCエンジンは、最高出力315ps/6300rp m、最大トルク36.9kgm/4800rpmを発生。
(写真右下)BMW3シリーズがベースのB3Sは、全長×全幅×全高=4470×1740×1395mm。ホイールベース=2725mm。車両重量=1490kg(6MT)。
車両本体価格=788万円。



しっとりした気品と上質さ
 まず、最初に乗ったのはB3S。フロントの低く突き出したスポイラーやボディ・サイドのアルピナ・ラインからは、派手な印象を受ける。しかし、乗り味は決して派手でも下品でもない。むしろ、それこそ「年上の女性」のように、落ちついた気品と上質さを持っていることを、私は知っている。そして、今回もそれは裏切られることがなかった。
 BMW車とまったく同じキイでオート・ロックをはずし、ドアを開けると、ステップにALPINAの文字がある。乗りこんでドアを閉めると、パンと乾いた音がした。ボディ剛性の高さがその音でもわかる。
 シート形状は3シリーズのスポーツ仕様とまったく同じだ。ただし、シート地は青と緑のアルピナ・カラーのラインが入ったものになる。それは革巻きのステアリング・ホイールも同様で、青と緑のステッチとともに、中央のエンブレムが、ピストンとクランク・シャフトを図像化したアルピナのものに換えられていた。
 メーター・パネルの色は紫がかった青。速度計は300km/hまで刻まれている。回転計は6500rpmからゼブラ、7000rpmからレッドとなるが、リミッターが効く7200rpmまで滑らかに回る。
 走り始めてまず驚かされたのは、ボディの剛性感の高さに対して、だった。どんな荒れた路面を通過しても、ミシリとも言わない。足まわりのしなやかさも極上で、前225/40ZR18、後255/35ZR18の極太タイヤ(ミシュラン・パイロット・スポーツ)を履くにもかかわらず、轍に足をとられることはない。固められているのにストロークは長く、しっかり仕事をしているのがわかる。
 しっとりしたステアリングの操舵感やジワッと効いてくるブレーキの踏み心地の良さは、私の身体が覚えているのと同じものだ。しかし、ここで特筆すべきは、やはりエンジンの滑らかさだろう。B3Sのインライン6は、B3 3.3のものと同じで、鋳鉄ブロックを持つ先代M3のアメリカ仕様(S52US)をベースとしている。違うのはボアを0.6mm拡大してあることで、その結果、排気量は47cc増えて3346ccとなり、パワーも20ps増しの315psとなった。だが、問題はパワーの多寡ではなく、回転の質にある。磨きに磨き込んだ結果、この上ないほどの上質さに満ちた感触を実現しているのだ。それはいわゆる軽く吹け上がるというのとは違い、ある種の重厚感を伴っている。しっとりと粘りつくような感じを残しながら、実に滑らかに吹け上がっていくのだ。
 やがて高速道路に入ると、このクルマの安定感は驚異的ですらあった。文字通り路面に吸いつくように走る。目地段差を越えても跳ねることはない。コンという小さな衝撃が1回きて、動きはピタッと止まる。回転数を上げるにつれ、エンジンが徐々に高音になっていくのが気持ちいい。アルファのような官能的な音ではなく、あくまで素っ気ない機械音なのだが、あたかもしっかり回っていることを知らせるように、コーンッという抜けたサウンドを響かせる。アクセレレーターの微妙な操作に対するレスポンスも抜群で、どこにもユルイところがない。しかし、荒々しさや猛々しさとは無縁である。グッと踏み込んでも、ドンと押し出すような衝撃が襲うことはない。粘るような滑らかさでググググと加速していく。これはスポーツカーではなく、あくまでスポーティなサルーンなのだ。  やがて、高性能車における本当の上質さとはこういうものかと独り頷いている自分を発見して、なにやら可笑しくなった。


すべてアルピナB10 V8S
すべてアルピナB10 V8S。
(写真一番左上)上質感漂う内装。
(写真一番左下)試乗車にはオプションのバッファロー革製シート(150万円)がつけられていた。
(写真左二番目上)美しいブルーのメーター・パネル。
(写真左二番目下)ストロークを4mm伸ばして、4.6リッターから4.8リッターになった90度V8は、最高出力384ps/5800rpm、最大トルク52.0kgm/3800rpmを発生。
(写真一番右)20本スポークのアルミホイールはアルピナの象徴。
(写真右二番目上)BMW5シリーズをベースとするB10は、全長×全幅×全高=4775×1800×1415mm。ホイールベース=2830mm。車両重量=1690kg(スウィッチトロニック付5AT)。
(写真右二番目下)リアにはB10 V8Sのバッジ。
車両本体価格=1297万円。



味付けが異なるB10 V8S
軽い興奮とともにB3Sを降り、B10 V8Sに乗り換える。5シリーズ・ベースゆえ、内装などの高級感はかなり増しているが、アルピナ・カラーを使った基本的なデザインは同じだ。しかし、走り出してみると、かなり乗り味が違うのに驚いた。ひとことで言えば、B3Sがスポーティなサルーンなら、B10 V8Sはスポーティな“超高級”サルーン。そういう味付けになっている。
 たとえば、径が大きめで、握りが細めのステアリングの操舵感は、B3Sよりかなり軽くなっており、ロック・トゥ・ロックは3.7回転もある。しっとりした感触はどちらも同じだが、B3Sの2.8回転と比べるとかなりスローな設定だ。
 ペダル類もずっと軽めの感触で、とりわけブレーキは、まさに真綿を締めつけるようなソフトな踏み心地である。そして、踏めば踏んだだけ、ブレンボ製のキャリパーを装着したそれは、ジワジワッと効いてくれる。
 足まわりもB3Sより明らかに柔らかいし、ストロークも長いが、コーナーでは驚くほどよく粘る。路面に吸いつく感じはB3S以上で、さらに極太の前245/35ZR19、後275/30ZR19というタイヤ(ミシュラン・パイロット・スポーツ)を履くにもかかわらず、轍に足をとられることもなければ、乗り心地も快適そのものだった。
 BMW540Iのものにチューニングを施したV8エンジンは、これまでの4.6リッターから4.8リッターに拡大され、384psの最高出力を発生する。吹け上がり感は、インライン6より若干重い印象だが、しっとりした滑らかさは変わらない。
 そして、2台の比較でなによりも驚いたのは、箱根ターンパイクでかわるがわる運転してみると、上りも下りも、車重が200kgも重いB10 V8Sの方が速いばかりか、操縦性の点においても、明らかにB3Sを上回っていたことだった。とにかく、ボディの大きさをまったく感じさせないほどに、コーナリングしやすいのだ。ステアリングに一定の舵角を与えて、あとはアクセレレーターの微妙な操作で驚くほどきれいなラインを描いて曲がってくれる。その気持ち良さたるや、まるで魔法にかけられているかのようだった。
 上には上がある。B3Sの上質さは比類ないものだが、このB10 V8Sの乗り味は、それよりもさらに上をいっている。これはもはや、アルピナ・マジックと言わざるをえない。
 それにしても、と私は独りごちた。このクルマのオーナーになって、毎日この乗り味を堪能できたらどんなに幸せだろうか、と。この“感触の一級品”は、私にとっても、「永遠の憧れの女性」のような存在である。


2003年6月号掲載



 
 
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