ENGINE online/エンジン オンライン

フランチェスコ・トラーパニ&NISSAN GT-R


いらないけど必要なのが、ラグジュアリー。



文=鈴木正文(本誌) 写真=石田 東




飾る動物
 猫は唾液で濡らした前脚で顔を洗うみたいだが、みずから化粧したり飾りを身に着けたりしてよろこびはしない。犬も牛も蟻も蜂も鶏もしない。人間だけがする。化粧したり宝飾を身に着けたりするのは、ゆえに、人間の人間的本質に根ざした文化的な行為である、といえる。
 どうして人間だけがそんなことをするのか、そこのところは、ほとんどすべての文化的行為同様、よくはわからない。どうしてことばをしゃべり、文字を使うのか、どうして歌い、踊るのか、なぜ祈り「神」をあがめるのか、なんで人を好きになり人と争うのか、そういうことも一応の説明はあるにしても、本当のところはだれにもわかっていない。
フランチェスコ・トラーパニ&NISSAN GT-R
 19世紀末( 正確にいえば1884年)にイタリアはローマに発祥した世界的な高級宝飾ブランド、ブルガリの最高経営責任者(CEO)であるフランチェスコ・トラーパニさんは、「ジュエリーはメッセージだ」という。どんなメッセージなのか?
「パワーの誇示であり、人生における達成のシンボルです。とくに、女性にとってジュエリーは重要なアイテムです。女性の美をたたえる、そして女性にたいする男性の気持ちをこめたメッセージとして、ジュエリーは非常に重要です」
 宝飾を身に着けるのは人間的本質に根ざす行為ではあるけれど、でも、ジュエリーなんかなくても愛は語れますよね、とかれにいってみる。それに、ジュエリーは防寒の役にも立たないし、それを使ってワインのコルクを抜くこともできない。つまり役立たずじゃないですか、と。
「それはでも、たんなる理屈というものです。われわれのライフはジュエリーにかぎらず不要なものに満たされている。不要だけれど必要なものに。ジュエリーだけじゃない。ぜいたく品はみんなそうです。いりません。でも、そういうものが多くの人をハッピーにしているのです」
 僕たちの動物的生命の再生産に直接役に立たないだけでなく、それをかえって込み入ったものにしかねないゼイタクに取りつかれること――、これは人間の持つ逃れられない文化性ゆえだ。富める者は富める者なりに、貧しき者は貧しき者なりに、「不要だけれど必要な」ゼイタクへの欲望に突き動かされる。それはざるソバに振りかけるきざみ海苔だったりもするし、地中海的色彩もあでなブルガリのジュエリーだったり、なくても困らない大胆なデザインのブルガリ・ウォッチだったりもする。



古代ギリシャと古代ローマ
 いまでこそ世界中に知れわたり、とくに都会の女性から熱い視線を浴びるブルガリが、いまのブルガリになったひとつの転機は1960年代にやってきた。当時、支配的だったフランス流の宝飾デザインから、古代ギリシャや古代ローマの精神性を称揚するイタリア・ルネサンス期のスタイルを大胆に取り入れたスタイルによって、ブルガリはいまでいうセレブたちのこころをとらえた。ちなみに、ブルガリを創設したソティリオ・ブルガリはギリシャ人。ブルガリ家はギリシャ古来の銀細工を生業としていたから、古代ギリシャに霊感を得たルネサンス様式を取り入れるのは自然なことでもあった。
 1970年代に世界に打って出たブルガリは、その後着々と名声を高め、とくに1977年に発表した腕時計「ブルガリ・ブルガリ」の大ヒットによってさらに一段の飛躍を果たす。そして、本格的なグローバル・ブランドへと急ピッチで歩みだす。それを引っ張ったのが、1984年に弱冠27歳で最高経営責任者に就任したブルガリ・ファミリーの一員であるトラーパニさんだ。
 ことしブルガリは「11億ユーロ(1ユーロ160円とすれば1760億円)に近い売り上げになるでしょう」というが、20年前の1987年、かれが経営トップに立って3年目にあたる年の売り上げは、その20分の1程度だったという。つまり、6000万ユーロ(96億円)に届かないレベルだった。また、株式を公開した1995年には、「いまのおよそ10分の1の売り上げでした」という。わずか20年余りでビジネス・スケールが20倍にもなっている。驚異的というほかない。
 これだけの急成長を成し遂げたのは、時代が味方したからでもある。なぜかはともかく、世界中でお金持ちが増えた。僕の実感でもそうだし、トラーパニさんもそういう。
「ゼイタク品とゼイタクなサーヴィスへの需要は高まっています。裕福な人が増えているからです。そしてかれらは、裕福だけれどもじぶんたちほどには裕福でない人たち、それを裕福な群集といってよければ、裕福な群集との違いを示す方法をつねに求めています。ゼイタク品に群がる人が増えているから、その群れと差別化したい。いきおい、本当にゼイタクなものがより求められることになって、非常に高価な飛行機や船、不動産、時計、ハイ・ジュエリーなどが飛ぶように売れる。ブルガリでも過去3、4年とくに、より高価なものが好調です」



ハイとミディアム・ハイ
 トラーパニさんのいうハイ・ジュエリーは、目安としては7万ユーロ(1120万円)以上のもの。ミディアム・ハイというカテゴリーもあり、こちらは2万−3万ユーロ(320万円-480万円)ぐらいからスタートする。裕福な群集はミディアム・ハイを、もっと裕福な一群はハイをどんどん買っている。
「ハイ・ジュエリーの供給力強化のための投資をおこなっています。ハイ・ジュエリーの場合、お客はユニークなピースを5、6点ぐらい見たあとでなくては、購入を決めてくれません。多額の投資をするのだから当然ですね。ですから、われわれはそれぞれにユニークなハイ・ジュエリーの選択肢を豊富に用意しておかなければならなくなったわけです」
 充実したミディアム・ハイとハイの宝飾の品揃えを目の当たりにでき、合わせて時計やレザー・グッズやアクセサリー、フレグランスといった多様な製品の全容も一望できる大型店の整備が、いまブルガリの戦略のポイントになっているという。
 そういう戦略の最新標本が11月2日に表参道にオープンした「表参道ツイン・ショップ」、そして同30日に銀座にオープンする「銀座タワー」である。表参道ではカフェやチョコレート・ショップもあり、銀座ではレストランやバアも併設し、ブルガリ的にイタリアンなラグジュアリーの世界をつくっていく。
「6年後には売り上げをいまの倍にします。そのために大きなプロジェクトを、いくつか動かしています。そしてブルガリを世界でもっともパワフルなラグジュアリー・ブランドにすること、それが私の夢です」
 と、トラーパニさんは自信満々に語る。裕福な群集と、その群集から離れようとするより裕福な一群の双方をともに引き受けて、上昇気流に一気に乗ろうというもくろみである。
 役立たずの、しかし不要だから必要でもあるジュエリーとラグジュアリーに、僕たちは本当のところなにを求めているのだろうか。



新次元マルチ・パフォーマンス・スーパーカー
東京モーターショウに合わせて発表され、12月6日から全国160カ所に新設された「日産パフォーマンスセンター」で販売される日産のイメージ・リーダー役をになう「新次元マルチ・パフォーマンス・スーパーカー」。メーカーみずからスーパーカーと謳うように、480psのV6ツインターボを搭載し、4WDを介して310km/hの最高速をたたき出す史上最強の日本車だ。
 
 
最新記事一覧
Driving Lesson
エンジン・ドライビング・レッスン
「エンジン・ドライビング・レッスン2017」の受講生募集を開始します。今年の開催は全3回…
NEWS
LANDROVER DISCOVERY/ラ…
第5世代に進化した7人乗りフルサイズSUV、ディスカバリーの受注がはじまった。
NEWS
JAGUAR LANDROVER/ジャ…
ジャガー・ランドローバーの10億£(1£=146円換算で約1460億円)という巨額投資によって開設されたエ…
NEWS
JAGUAR XF SPORTBRAKE/…
ジャガーはテニスで有名な英ロンドンのウィンブルドン・センター・コートに、新型XFスポーツ・ブレー…
NEWS
Ferrari F1GP/フェラー…
開幕戦からメルセデス・ワークスに伍する高い戦闘力を発揮したスクーデリア・フェラーリ。
NEWS
Tribute to Ferrari/ト…
創立70周年を記念して世界各地で記念行事が目白押し。中国上海では、8月31日まで記念展示が行なわれま…
NEWS
Andy WARHOL EXHIBITION …
創業90周年を記念して日動画廊が「アンディ・ウォーホル展」を開催。その作品の中心となる肖像画の女…
SHOP
ENGINE ONLINE SHOP GALL…
SHOP
マニファッティのドライ…
1960年、イタリア・ナポリで創業したグローブ専業メーカー、マニファッティ。名だたる大手トップ・メ…



バックナンバーページの定価表記について
「ENGINE 2014年3月号」以前の定価表記は、発売時の定価になっております。
予めご了承くださいますようお願い申しあげます。



▼表紙の男とクルマ 最新5件
 中嶋一貴&TOYOTA 2000GT
 高橋克典&PORSCHE 911 Carrera 4S
 ステファン・ウルクハート&MclarenF1
 高橋幸宏&BMW X6
 内田 樹&BUGATTI VEYRON 16.4