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三枝成彰&MINI COOPER CLUBMAN


趣味は音楽以外にない、という男の生き甲斐。


文=鈴木正文(本誌) 写真=森川 昇



ある夜、酒場で

 4月8日に東京の「サントリーホール」で上演される新作モノオペラ「悲嘆」を作曲した。「愛する人に殉じた女の物語」というサブタイトルを持つこのオペラは、歌手の中丸三千繪さんが、おそらく1時間半ほどにおよぶだろう舞台をひとりでつとめきる。だから、モノオペラ。でも、モノオペラって?
「モノオペラってじつはすごく少なくて、かんたんにいうと、ひとつかふたつしかないんですよ。全世界の歌手は非常に望んでいるんですけど、だれも書かないんですね」
 そうなんだ。で、どんな人が書いたんでしょう。
三枝成彰&MINI COOPER CLUBMAN
「プーランクという人がやってますね。“声”。でも上演されることはあまりないですね、不思議に」
 フランシス・プーランク――。狂乱の1920年代=ラネー・フォルに登場したフランスの作曲家。ジャン・コクトーのサロンに出入りし、20歳で夭折した『肉体の悪魔』の小説家、レイモン・ラディゲの恋人でもあったといわれるかれの「声」という作品を、しかし、僕は知らなかった。なんとも応答のしようがない。はあ、とだけ合いの手を入れる。
「悲嘆」の台本を書いたのは、サーの称号のあるイギリスの著名な劇作家にして小説家のアーノルド・ウェスカー。セリフは当然英語。サントリーホールでは日本語字幕が出る。そのサーの人とは、去年まであった六本木のバアで知り合った。
「そこのママが紹介してくれてね。この人作曲やってるのよ、オペラ書いてるの、みたいなことをいって」
 サー・アーノルドは1950年代に社会派作家として頭角をあらわした、あちらでは名高い巨匠。オペラの台本を書いた経験もあった。そういう異国の人がなんで、70歳をとうにこえているのに六本木の飲み屋で常連ぽい感じで飲んでいて、「ママ」と親しくなっているのか不思議だけれど、不思議なことは世の中にたくさんある。ともかく、「あ、そう」みたいなことになって、「じつはオレもオペラ書いたんだけど、うまくいかなかったというんですね、かれが」。
 そこで三枝さん、それならばとばかりに、頭のなかにあった「悲嘆」のアイディアを語り、書いてみないかともちかけた。じゃあ書いてみる、となって、それが酒場の空約束にならずに結実した。いい話だなあ、と聞き入った。なにがって、この2人のオープン・マインドぶりと、一瞬の偶然の出会いを必然のつながりに変えていこうとする、年齢をものともしないその前向きパワーが頼もしいじゃありませんか。


昭和三部作

「悲嘆」は、三枝さんが「昭和三部作」という位置づけのもとに作曲をもくろんだものの2作目にあたる。第1作は2004年に初演した「Jr.バタフライ」。プッチーニのオペラ、「蝶々夫人」の芸者・蝶々とアメリカ軍人ピンカートンとのあいだに生まれたピンカートン・ジュニアと日本人女性ナオミの愛のストーリーが、日米戦争の時代背景のもとで痛苦な軌跡をたどっていくという筋立てで、島田雅彦さんが台本にしている。2006年にはイタリアのプッチーニ音楽祭で、初の外国人作曲家作品として上演された。
 いっぽう、「悲嘆」の舞台は、日米戦争直前、1936年の東京。新婚半年にして「二・二六事件」に加わった青年将校の夫を銃殺刑によって失ったトミコの葛藤と悲劇の話だそうだけれど、この「悲嘆」につづいて「三部作」のフィナーレは、特攻隊の隊員にフォーカスするという。
 なぜ、昭和なのか?
「戦争中の昭和17(1942)年に生まれてますから、この60何年かのあいだのすごい移り変わりを見てきているんですね」といったあと、「三部作」には反戦的なメッセージを込めているのだという。というのは、三枝さんは「いま時代が戦前とよく似てきている」という観を強くしているからだ。自由な時代の雰囲気がだんだん失われてきて、自主規制的な言論の硬直化が起きているようにおもえる、と。その懸念は、「いまのうちに書いておかないと、書けなくなるかもしれない」というぐらい強いものだという。
 だからといって、そういう懸念なり時代にたいする批評的視点なりを、みずから政治の舞台で行動化していこうなどというかんがえはない。あくまでも作曲家であり、作曲によって時代を生きているし生きていくということなわけだけれど、それは「音楽は思想を伝える道具」だという「西洋人の見方」への共感がベースにあるからのようだ。
「西洋人てすごくおもしろいとおもうのは、プッチーニって作曲家がきらいなんですね。なぜなら思想がないから、と彼らはいう」


メッセージ性問題

「蝶々夫人」や「ラ・ボエーム」などで知られるオペラの代表的な作曲家が、とくにインテリ系の西洋人に人気がないのは、その通俗的ともいえるメロドラマ的作品性によるが、いっぽうで社会の底辺に生きる人物を主人公にした作品をものしたヴェルディのほうは、その強いメッセージ性ゆえに評価が高い。
「プッチーニ嫌いだというと、まあ、インテリだな、とみんながおもうんですよ。音楽を日本のように情緒とか癒しとかでとらえてないんですね、連中は。そういうことをいやというほど見てきました」
 それは「高尚」な芸術音楽だけではない。たとえば、マドンナのポップスだって、フェミニズムやイスラムとキリスト教などというテーマを正面に出しているではないか、と三枝さんは指摘する。
 いっぽう、「日本のアーティストや聴衆は音楽に思想を入れると、ものすごく嫌う。音楽には思想がないほうがいい、というのが日本」の一特質であることも肌身で知った。しかし、そこで日本の状況に棹差すように仕事をしていけば、日本以外で作品が上演されることはないだろう。オペラという西洋の芸術形式による表現にあえて取り組んでいながら、日本をこえた世界で評価されるチャンスを得なければ、「100年後の人間にすごいとおもわれてこそ芸術だ」といっていた音楽通でもあった父・健剛氏のメガネにもかなわない、というロジックが三枝さんのなかでめぐっているようだ。だから、「昭和三部作」なのだ。そしておそらく、日本国外での上演をも視野に入れたがゆえの、サー・アーノルドにたいする台本執筆依頼であり、英語上演でもあるのだろう。
「趣味は音楽以外にないですね。(音楽は)もうからないですから。もうからないのは職業にはなりません」
という。「機動戦士ガンダム」シリーズのアニメ音楽やテレビ・ドラマや映画の音楽も数多く手がけているので、音楽でもうけてもいるわけだけれど、そのもうけがオペラの興行で消えてしまう、という構造になっている。それでもオペラづくりと上演をやめないのは、それが「趣味」だからだ。そして、趣味こそ生き甲斐だからだ。こんどバアに行ったら、三枝さんを思い出して「趣味の思想性」を論じてみてはいかが?


MINI COOPER CLUBMAN/ミニ・クーパー クラブマン
  
BMWの手によってミニ・ブランドが新構築されたのは2001年のことだった
BMWの手によってミニ・ブランドが新構築されたのは2001年のことだった。むかしのミニの愛らしさと、ドイツの自動車テクノロジーの高品質、信頼性を融合したそれは、たちまち世界的ヒット作になった。
写真のエステート・ヴァージョンは、このほど日本上陸を果たしたばかりのミニ第3のモデル。
「クラブマン」の呼称は、エステート版もあったオリジナル・ミニから拝借。
 
 
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