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松坂大輔&FERRARI 599


あと20年、第一線で活躍するつもりでいます。


文=鈴木正文(本紙) 写真=森川 昇



白いフェラーリ599

 奥様の元日本テレビ・アナウンサー、柴田倫世さんが3月15日、ボストンで男児を出産した。2年前には長女が生まれているので一姫二太郎。なによりでした。これで3月25、26の両日、東京ドームでおこなわれるオークラン・アスレティックスとボストン・レッドソックスの2008年シーズン開幕2連戦のどちらかに、われらが「ダイスケ」が登板することも確実になった。それもまた、なによりでした。
 インタビューしたのはキャンプのために松坂一家がアメリカに渡る直前の2月の初め。今月の「表紙のクルマ」の白いフェラーリ599は、松坂選手が日本で乗っているもので、取材が終わるとじぶんで運転して帰っていった。
松坂大輔&FERRARI 599
 「ええ、クルマは大好きですね。東京ではこれだけですけど、アメリカではベントレーです。コンチネンタルGTに乗ってます。それとポルシェのカイエン・ターボもときどき」
 ちなみにコンチネンタルGTは外装が「曇った空みたいなブルー」で、内装は深い青。「内装がカッコいいな」 とおもって買った。ポルシェのペイントはワインレッドだそうだ。
 西武ライオンズに入団して最初に買ったトヨタのランド・クルーザーを皮切りに、AMGヴァージョンのメルセデス・ベンツ・ゲレンデワーゲン、ポルシェ911カレラ、ランボルギーニ・ガヤルドなどに乗ってきた。「空間把握能力がいい」とよくいわれるそうで、クルマを運転するのが苦にならない。どころか、乗るのを楽しみにしている。だから、ボストンで試合のあるときは、家から球場までせいぜい15分か20分の距離にすぎないけれど、かならずじぶんで運転していく。
 「あの空間が好きなんですね。ひとりで乗ることが。本当にこう、ひとりになる時間が大切というか。動かさないで、ただ乗ってぼうってかんがえてることもありますし」
 そんなことがある?
 「ありますね。クルマの空間が大好きなんですね」
 球場の行き帰り、コンチネンタルGTの車内ではいつも音楽をかけている。
 「だいたいカラオケ状態になってますね。ほとんど日本の曲です。EXILEさんを聴いたり、ミスチルさん、B'zさんも。かたよってますよ」
 と、エグザイル、ミスターチルドレン、ビーズなどのミュージシャンたちに「さん」をつける。松坂選手は大スターだから、おそらくかれらのすべてと知り合いなのだろう。「さん」がついてしまうのもいたしかたない。
 それに、そういう折り目正しいところも、二児の父親になったとはいえ、いまだ青春まっただなかのような若々しい魅力を発散するかれらしい。ちなみに9月に誕生日が来るまでは27歳である。


47歳までプレイする

 年齢のことが出たついでというわけではないけれど、こんかいのインタビューでいちばん予想外だったのは、「僕は(米大リーグ・プレイヤーとして)20年はやりたいですね。いや、20年やるつもりでいます」といったことだ。20年というと46、47歳まで現役でやる、ということだ。前例がないわけではない。「永遠の奪三振王」といわれるノーラン・ライアンが46歳まで現役でプレイしている。
 1947年、ロサンジェルス・ドジャーズ時代、いまも破られていない記録である162.4km/hの速球を投げたかれは、テキサス・レインジャーズに籍を置いた44歳のときですら、156km/hのストレートを投げている。ちなみに、松坂選手が公式戦で投げたボールの最速が、おなじ156km/h。それも2002年に右ヒジをいためた2年後のオールスター戦での記録である。
 「これからさらに年をとっていけばいくほど、厳しいトレーニングをしていかなければいけないとおもいますし、どんどん突き詰めていかなければ、じぶんのおもっているところにはいけないとおもいますね、ハイ」
 「じぶんのおもっているところ」とは、あと20年、第一線のメジャー・リーガーとして活躍すること。それは願 望一般ではなく、本気の目標だ。その意図、壮である。それに、じぶんが投手として、まだまだ開発途上にある、というおもいも強い。
 「まだ、じぶんの身体のなかにある力を100%使えていないとおもってます。半分ぐらいしか使えていない。いろいろな専門家の人たちと身体のことを話し合いながら、たとえばいま股関節をこう使っているけれど、こういうかたちで使えるようになったらもっとよくなるんじゃないか、といったことです。話としてはかんたんなんですが、そういう使いかたをするためには、やっぱり、もっと体力的に力をつけなければいけない。いろんな細かい筋肉を鍛えていってはじめて大きな筋肉を使える。それはちょっとクルマに近いものがあるかもしれないですね」
 「クルマに近いものがある」というたとえはなかなか含蓄がある。サスペンションのアーム(大きな筋肉)がいくらぶっとくて頑丈でも、その関節とかボディとの結合点に配置されるブッシュ類(小さな筋肉)とかがしっかり働かなければなんの意味もないからだ。
 「いろんな気になるアスリートの人たちにもっと話をうかがったりしたいですね。いろいろなスポーツを見るのが好きなんで、テレビとかで見てて、ああ、こうやってるのかなあとおもうことしかできていないんです。それで、専門的なものもふくめていろいろな本を読んで、こういうスポーツの人はこういう身体の使い方をしてるんだ、というのを参考にして、なんとかじぶんに取り入れることはできないか、といつもかんがえていますね」
 身体をよりよく使うためには、頭も使わなければならないのである。


目的意識

 松坂選手によると、たとえばピッチャーの場合、一般的には肩のラインと骨盤のラインを平行にするようにボールを投げなければいけない、というようなことがある。その場合、大事なのは骨盤を安定して運用できるようにすることなのだが、それはたんに歩いたりするときにでもいえることで、逆にいえば、なにげない歩きかた、ちょっとした走りかたもトレーニングの実践になり得る。そういうことは、とくにだれかに教わったというよりも、じぶんの技術を高めたいという問題意識のなかから、自然に学んでいったという。しかし、すべてのプロ野球選手がおなじ意識をもっている、というわけではない。むしろ反対だ。
 「日本で、西武ライオンズで8年間やってきましたけど、ほかの競技を野球に生かそうとおもって見てる選手は少なかったかもしれないですね。その意味では、参考になる選手はなかなかいませんでした。あの人はあれだけの能力、技術がありながら、なんでもっとこうしないんだろう、とおもうことはけっこうありました。だから、じぶんの刺激になる選手というのは、チーム内にはあまりいませんでした」
 いまはどうか?
 「ピッチャーでも野手でも、チーム内に刺激を受ける選手がいます。だから、その人たちのトレーニングはよく見てます。やってることじたいは、そんなにちがいはないんですが、やっぱり、一流の選手は目的意識を明確にして、トレーニングに取り組んでますね」
 とはいえちがいはやっぱりあって、アメリカではダッシュ走などの瞬発的なトレーニングが目立つという。室内のトレッド・ミルに上り勾配をつけて、全力で短時間走る練習だ。では、それをじぶんでもやっているかというと、そうではない。「僕はじっさいに地面の、芝生の上を走るほうがちゃんとしたトレーニングになるとおもっていて、マシンではそれはあまりやりません」というように、注目はしてもマネをするわけではない。じぶんにあったトレーニング法をじぶんの頭でかんがえている。だから、松坂選手が刺激を受けるのは、個々のトレーニング・メニューというよりは、むしろ一流のチームメイトがもっている「明確な目的意識」のほうらしい。なぜなら、「目標がその日その日を支配する」という母校、横浜高校の創立者、黒土四郎が好きだった「第一歩」(後藤静香作)という詩の中の一句が座右の銘だというし、じっさい、かれはたぐいまれな「目的意識」を、すでにリトル・リーグ時代からもっていたのだから。


中学生のときに決めた

 松坂選手の場合、米大リーグに行くという目標は、中学生のころに立てたものだというからおどろく。
 「中学生のときに野茂(英雄)さんがドジャーズにいたのを見て、おぼろげにもっていた(大リーグ・プレイヤーになるという)目標を、明確に意識するようになりました」
 それも、たんに「野茂さんみたいになりたい」というよりも、「野茂さん以上の活躍をしたい、とおもっていた」とのことで、アメリカのベスト・ピッチャーに与えられる「サイ・ヤング賞をとってやる」と決意したそうだ。
 「そしてワールド・シリーズでじぶんが投げて勝つ。また、その先でいえば、アメリカで殿堂に入れるような選手になる、とそこまでかんがえていました」
 ワールド・シリーズで、というのは、昨年のコロラド・ロッキーズとの第3戦で早くも実現してしまったけれど、まだたった1回でしかない。それはともかく、中学生で持った目標としては、松坂選手のそれはほとんど誇大妄想的に大きなものだった。
 「いま野球をやっている子も、プロになりたいとおもっていても、プロで活躍するとまではもしかしたら明確に目標にしていないかもしれないですね。やっぱり、早いうちから明確な目標をもって、そこに向かってなにをするべきかということをかんがえながら、ふだんから生活したほうがいいとおもいます。そうすれば、そこまで行かなくても、そこに近づくことはできるとおもいますし、それだけでもまわりの選手より上に行くことができるんじゃないでしょうか」
 若くても、さすが一流選手のことばだ。だから、西武ライオンズに入団したときも、最初から「メジャー・リーグに行くためのステップ」と位置づけていたのだという。そしてその通りになった。それもいきなり年俸600万ドルのスター・プレイヤーとしてボストンに行った。これもまた、さすが、というほかない。


自信は深まった

 そして1年。結果は日本人の新人投手としては最多となる15勝をあげたが、負け投手になった試合も12を数えた。ポスト・シーズンのプレイ・オフとワールド・シリーズでは大いに活躍したけれど、レギュラー・シーズンの成績については、すでに多く報じられている通り、本人も納得していない。
 「自信があったからアメリカに渡りましたし、1年間やってみて、当然うまくいかないことのほうが断然多かったですけど、でもやっぱり、じぶんのこういうところを改善していけば、もっと勝てるとおもいましたし、ある意味、苦しんだ1年でしたが、僕のなかでは逆に、これならやっていけるという自信も深まった1年でしたね」
 納得していないのは、たしかな手ごたえを感じたからでもある。
 具体的には、「どうあっても手の届かないレベルの選手ばかりじゃない。がんばって努力していけば、当然、手の届くところにあるという実感がある」ということだ。
 「僕は年齢的にも技術、体力ともに、まだまだ伸びるとおもってますし、じっさいに、ここ何年間でも1年1年、力がついてきているのを実感してます。それは他面では、まだまだじぶんじしんを高めていかないと、人と勝負できる状況にならないということがわかっている、ということでもあるんです」
 ほとんど突っ込むところがない発言だ。こういっては失礼ながら、テレビで見たりして勝手に抱いていた印象より、はるかに明晰な自己理解力を持っている。
 「去年1年やって、これならやれる、とおもいました。想像していた通り、そうかんたんにはいかない場所でし たが、それこそじぶんが求めていたものだとおもって、すごくうれしかったですね。苦しみが大きいぶん、よろこびはそれ以上のものになるとおもってましたし、じっさいそうだった。最後の最後、ワールド・シリーズで優勝できて感じました。まだ1年ですけど、行ってよかった、とおもえてます」
 大リーグの使用球が手に合わないだけでなく、日本の使用球のように大きさや重心が一定でないなどという問題があったし、審判によっては露骨にあらわにしてくる差別を招かないために、不満な球でも交換を要求しなかったりという例も多々あったという。また、ことばの壁も手伝ったコミュニケーションの不十分さも痛感したそうだ。
 しかし、松坂選手は、そういうものを全部のりこえる力がじぶんにはある、と確信している。100マイルの速球を期待できるぞ、と僕はおもった。


「エンツォ」由来のスーパーV12をフロントに積む、現行フェラーリの最強モデル、599
「エンツォ」由来のスーパーV12をフロントに積む、現行フェラーリの最強モデル、599。
なんと、5999cc、620ps! メーカー公称の最高速は320km/h以上、0-100km/hはたったの3.9秒!
おなじ65度V12でも、2+2の「612スカリエッティ」に載るエンジンとは、根本的にちがうことに注意。
ちなみに白のボディ・カラーはいま一番人気だ。
 
 
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バックナンバーページの定価表記について
「ENGINE 2014年3月号」以前の定価表記は、発売時の定価になっております。
予めご了承くださいますようお願い申しあげます。



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