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高橋幸宏&BMW X6


ひとり渓流を行く――、
そのさみしさが好き。



文=鈴木正文(本誌) 写真=森川 昇



水生昆虫のサナギのはなし

 知ってる人にはいまさらだろうが、高橋幸宏さんの場合、釣りをすることがライフスタイルの根本にある。海釣りから入ったというが、それが40年前のこと。そして、ここ15年ほどはフライ・フィッシングに「はまっている」。「もうヒマがあったら、それしか行かない」というぐらいに。そんな釣り行のお供は、発売時すぐに買ったボルボのクロスカントリー(XC70)。釣りには連れていかないもう1台の愛車、1993年製、つまり空冷964型のポルシェ911カレラ2カブリオレ同様、ボディは「真っ黒」。オシャレです。
高橋幸宏&BMW X6
 そのボルボに乗って「こないだも伊豆半島の山奥にひとりでいってきた」という。
「わりと早めに入って、夕方6時ぐらいまで、ずっと上流めざして歩いてましたね」
 ひとりで行くのが好き?
「好きですねえ。さみしいんですよ、すごく。その感じがいいんです」
 釣りのときは「ほかのことはできるだけかんがえない」。「なんで(魚が)出ないのかなあ、ということだけかんがえてますね。たくさん釣れちゃうときもあるんですけど、天然の魚、自然の川ですから、めったに釣れない。ぜんぜん釣れないで帰ることもあります。でも、そういう釣りのほうが好きなんですよ」
 深山の渓流の、急ぐ水面めがけてひとり、魚をキャッチできようができまいが、じぶんで巻いたフライを日がな一日、投げつづける。投げつづけながら、より速く流れる上方へじりじりと進んでいく。ひたすらに。
 原田知世、高野寛、高田漣、権藤知彦、堀江博久とともにこのほど結成したバンド“PUPA”(ピューパ)は、水生昆虫のサナギという意味だ。フライ・フィッシングで使われるフライ=疑似餌の名称でもある。
「フライ・フィッシングのことばってすごい響きがいいんで、バンドつくるときに、(そういうことばを)いくつか用意してもってったんですよ、みんなに。どれがいいっていったら、知世ちゃんがピューパに食いついたんで」、それがバンド名になった。
 しかも、7月2日に発売されるこのバンドのアルバム・タイトルは、『フローティング・ピューパ』である。「フローティング・ピューパっていう種類の毛ばりがあるんですね。うまく脱皮できないで流れていくサナギたちのことなんです」
 渓谷の急流にさらわれていく昆虫になりきれなかったサナギたち――。切ない光景だけれど、ありうべき将来を奪われた幼虫でも成虫でもないものたちへの思いが、ニュー・アルバムのタイトルに込められているのにちがいない。どんなふうに? それは聴いていただくほかない。


バイバイ、トーキョー

 いま、長野のほうに土地を探している。生まれ育って、一度も離れたことのない東京暮らしを、切り上げようかな、とおもっているからだ。「軽井沢からちょっと上のほうですけど、千曲川系列で、土地のなかに多少の小川が入っているところ」が目当てという。本気モードだ。「ゆくゆくはそっちのほうに住んじゃおうかな、とおもってて」
 東京は、仕事をするにはいいけれど、生活するにはもう「キツイ」。「夏とか、むかしよりまちがいなく4,5度、温度が高いですよね。土がないし。だから、まあ、向こうにいったら、僕、犬がすごく好きなんですけど、いまだに東京の家で飼えないでいるんで、大きな犬を飼って、仕事のときだけこっちに来るようにすればいいかな、ぐらいにおもっているんです。あとは釣りができれば」
 東京の、かつては静かだった西郊の住宅地、自由が丘に生まれ育った。いまではオシャレな繁華街をも抱えるようになったそこは、高橋幸宏さんが少年のころは「田んぼだらけだった」という。そしていま、むかしを知る者の目には、「オモチャみたいな町になっちゃって、ちょっと恥ずかしいような、なんともいえない」感じになったのだという。「ヘビもカエルもいたし、鬼ヤンマもいた」自由が丘は、消えてしまった。
「いま、セミの生態も変わってますものね。東京ってむかしはアブラゼミがメインじゃないですか。で、ヒグラシもちゃんと鳴いていた。ニイニイゼミも6月の終わりぐらいから出てきて。でも、いまどきはクマゼミになってますもんね。シャンシャンシャンシャアンって鳴くあれ。あと、ミンミンゼミも東京ではめったにいなかったですよね」
 かつては南にいたセミが北上してきていることを、生活感覚で知っている。そして、周囲の自然環境だけが東京を変えたのではない。
「たとえば、1980年代に東京とか、ロンドン、ニューヨークやベルリンがおもしろい、エキサイティングだとかいってたけど、いまはもうそういうイメージ、僕にはないんですよね。カルチュアがそういう街にあるとは、もうおもえない。別にどこでもおなじじゃないか、世界どこでもっておもう。東京でもどこでも、もしおもしろいとしたら、そこにだれかがいるからおもしろい、ということならわかるんだけど。それでも、東京がおもしろいとか、いまでもいっている若いデザイナーとかいっぱいいますけどね」
 ちょっとシニカルにいう。いわれてみるとなるほど、グローバリゼーションの高波に飲み込まれた東京はトーキョーになり、そこをわがもの顔に闊歩するのは、グローバル・キャピタリズムの推進人か守護人か受益人か寄生者だけになっている。
「人がワアッて歩いているのを見ると、水生昆虫のサナギがワアッて流れてる感じに見えるときがあるんですよ。(こんどのアルバムのなかには)そういう詩もあるんですけど」


抽象的人間関係

 この1、2年、「サディスティック・ミカ・バンド」や「YMO」を再結成したり、「ライディーン」のセルフカバー版「RYDEEN 79/07」をリリースしたり、またYMOの21世紀ヴァージョンたるHASYMOとしてのそれもふくむコンサート活動を活発化させたりして忙しくしているうちに、「東京じゃなきゃできないっていう時代じゃなくなってきちゃった」感を強くしていった。それというのも、ひとつにはインターネット時代ゆえに、人と会わずとも、データのやりとりで「けっこうレコーディングしちゃってる」という現実があるからだけれど、でも、フェイス・トゥ・フェイスの「本当のコミュニケーション」は、ときに人間関係のわずらわしさをともなうにしても、結果として創造物を「いいほうに変えることが多い」という。
 なまなましい人間関係の負荷を無限にゼロに近づけるネット上の抽象的=電子的な人間関係を、20年以上も前から音楽的に先取りしてきた男がいま、電子の支配空間と化してしまった東京を棄てて、山奥に流れる川の音楽との「本当のコミュニケーション」につかろうとしているとしたら、それはなにを意味するのか? それはわからないけれど、虫ではない僕たちも、リアルさを喪失しつつある電子時代に流されつつある「フローティング・ピューパ」なのかもしれない、とおもうのだった。


6月下旬に日本上陸を果たすBMWの新コンセプト、X6
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6月下旬に日本上陸を果たすBMWの新コンセプト、X6。
世界中の大都市に族生するSUVに挑戦するかのように、あえてクーペ・スタイルをとるBMWのエレガントでスポーティな大型4WD。「スポーツ・アクティヴィティ・クーペ」と称する。
全長4877mm、全幅1983mm、全高1690mm、ホイールベースが2933mm。車重は2145kg。
写真のクルマは、輸入開始になった2機種のうち、3リッターのパラレル・ツインターボを積む「xDrive35i」。
 
 
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予めご了承くださいますようお願い申しあげます。



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