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高橋克典&PORSCHE 911 Carrera 4S


愛馬、ハーレーとの旅で、得たものとは?


文=鈴木正文(本誌) 写真=森川 昇



やめようとおもったときのこと

 それは8年か9年ぐらい前のことだった。高橋克典さんは、愛馬、ハーレー・ダビッドソンのロード・キングに乗って、まず京都に向かった。仕事のためではない。といって、なにか別に目的があったわけでもない。そして、気ままなひとり旅、というよりはシリアスな気分だった。
 「もうホントに(芸能界にいることを)やめようとおもって。じぶんの才能にも限界感じてたし、着替えと合羽とGパン1本と、下着とグラヴと、あとはTシャツ何枚か、ホントに必要最小限のものだけ持って、放浪の旅に出たんです」
高橋克典&PORSCHE 911 Carrera 4S
 そのころ、ポルシェ製のメルセデスとして鳴らした500Eから買い換えたE500に乗っていたが、仕事をやめようというラディカルな決断に傾いているときに、成功と安定のプラカードのようなメルセデスに乗っていく気分にはなれなかった。
 「安定していたくなかったわけですからね。2輪でいきたかった」
 周囲にしてみれば、それは奇異な行動だった。1993年、28歳のときに歌手としてデビューし、ほどなくして俳優業もはじめた高橋さんは、トレンディ・ドラマをはじめとしたテレビ俳優としてたちまち引っ張りだこになり、1999年はじめには、主演した「サラリーマン金太郎」が大ヒット、順風満帆を画に描いたようにスター街道を快走していた、そんなときだったからだ。
 どうして?
 「やっぱり疲れてたんでしょうね。疲れちゃったなあとおもったら、じぶんの限界とかいろいろなことに突き当たっちゃって」
 「サラリーマン金太郎」が当たる1年前、高橋さんはNHKの水曜シリーズ・ドラマ「翔ぶ男」に出演したのだが、そこではそれまで多く出演してきたいわゆるトレンディ・ドラマとはちがって、「人のこころをつくっていく」というところからの役づくりが要求された。それは、「ああ、芝居っておもしろいなあ、やっと救いが見えたな、という感じ」をもたらす経験だった。そして「サラリーマン金太郎」の話がきた。
 「本宮ひろ志さんの原作はすごく好きだった。あのマンガの金太郎の目が好きで、ハラをくくっているセリフも、ものすごく気持ちがよくて、やりがいがあったんですよ。金太郎の気概を、どこまで表現できるかっていう気持ちでやれたんです。でも、途中でやんなってきちゃった」
 というのも、当たったばかりに、「サラリーマン金太郎」は原作と離れた2作目につながっていき、1作目で高橋さんがつくってきた「金太郎」とは別の「金太郎」を演じなければならないハメになった、ということが大きかった。ほかにもいろいろあったらしいが、次第に演技に手ごたえを感じなくなっていく。頑張りたいのに、いまやっている演技が果たしていいのか悪いのか、だれもいってくれなくなり、じぶんでもわからなくなっていった。役をやってはいるが、その役のなかにじぶんがいない。そのことに耐えられない気持ちばかりがふくらんだ。
 「それでやめようとおもって、ハーレーに飛び乗ったんです」



屋久島へ

 飛び込みで小さなビジネス・ホテルに泊まった京都には、2、3週間ぐらいいた。「なんかいいもんみたいなとおもって、建物見たり、ぶらぶら散歩したりしてました」という。有名旅館なんぞに泊まることはかんがえなかった。いわく「ケチって旅してたんです」。だから、ビジネス・ホテルでも「素泊まりでいいから9000円ぐらいにならないでしょうかね」と、頼み込んだりした。そう頼んでいるのが、売れっ子俳優の高橋克典であることは、わかられていたけれど、高橋さんはその種のメンツにはこだわらない。そんなことより、「オレってなんだろう」というもっと根本的な問題に直面していた。しらずしらず流れに合わせていっているうちに、いやなことがあっても表面に出さないようになっていき、そのうちなにが好きでなにが嫌いなのか、わからなくなっていった。役づくりどころの話ではなくなっていた。それでも、オートバイが大好きで、「できるだけ乗っていたい」ということはわかっていた。それで、オートバイでのひとり旅に出た。
 京都を後にすると四国に行き、温泉に入ったり、山中ツーリングをしたりして走りたいだけ走った。疲れると、人に教えてもらってどこかに泊まり、そうでなければ道の駅でシュラフにくるまって野宿した。そうしているうちに、そうだ、屋久島に行って縄文杉を見よう、とおもい立つ。鹿児島で登山用の靴を買い、ユースホステルを予約して勇躍、屋久島に乗り込んだ。
 「でも、ユースホステルは若い人たちばかりで、僕はひとりでいたかったのでキャンセルしたんですけど、縄文杉をみにいく朝、5時に集合場所にいったら、ユースにいた子たちと会っちゃったんですね」
 縄文杉まで6時間かかる道中をともにすることになった。それが案に相違してとてもよかったという。
 「なんか、おもしろい子たちばかりだった。営利主義の歯医者で働いているのがいやだとか、すごいみんな純粋なんですね。ふたり組の看護婦さんはレズで、職場には内緒にしてこっそり来たとか。絵を描いている男の子と、彫刻をやってる女の子の結婚前のカップルは、それぞれ別に彼女と彼氏がいて、でも、帰ったらちゃんと別れて結婚するんだとかいって。いろいろおもしろかった」
 高橋さんが、そんなユースの若者たちと談笑しながら島を登っていく姿が、ドラマのシーンのように浮かぶ。かれらはむろん、高橋さんがだれかは知っていて、でも、高橋さんを雲上人のようにではなく、まるで友だちのようにあつかった。
 山の中の食堂でソバを食べてると、まわりの人に「金太郎、またやらないの。たのしみにしてるよ」といわれた。手ごたえがないとかいいつつ、でも一所懸命やってきたことが、ちゃんと伝わっていたことを知ってうれしかった。じぶんの仕事をたのしみにしてくれている人が、旅の先々で、思いがけずに多くいた。
 ハーレーの旅の帰途、タンクにまたがっていると、「あ、そうか、また挑戦することはできるんだ」とおもっているじぶんがいた。



課長、係長

 いま、高橋さんは2つの当たり役をもっている。ひとつは「課長島耕作」、もうひとつは「特命係長 只野仁」で、そのどっちでも、組織のなかにあって、しかし、じぶんらしく生きていこうとする男を演じている。高橋さんに会社勤めの経験はないが、「金太郎」ふくめ、組織に押しつぶされない組織人という役回りに、不思議に縁がある。「島耕作」は6月の放送(日本テレビ系)につづき、この秋に第2弾が放映になる。「只野仁」も来年12月公開で映画化されることが決定している。不本意な状況にあっても、じぶんの個性をベストに発揮しようと奮闘するヒーローを、多くの人が高橋さんに重ね合わせているからこそだろう。僕にしても、そういうヒーローにあこがれる。

この2008年型ポルシェ911カレラ4Sは、高橋克典さんの所有車そのもの
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この2008年型ポルシェ911カレラ4Sは、高橋克典さんの所有車そのもの。この前に乗っていたポルシェ・ボクスターから買い換えた。「クルマのバランスはボクスターのほうがよかったな、とおもうけど」とはいいつつ、やっぱり911の妖しい魅力にはあらがえなかった、と見える。カレラ4にしたのは、奥方も乗るため、4WDの安全性を優先した結果。
ホイールを19インチのBBS製に、オーディオ・システムを「ソニック・デザイン」製に換装し、ナビはカロッツェリアを装着する。このシルヴァー・ボディは「メテオ(流星)グレイ・メタリック」で、カレラレッドという真っ赤な内装と組み合わせている。ほかに1995年製のE500も持っているという。
 
 
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予めご了承くださいますようお願い申しあげます。



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