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from EDITOR|ENGINE 2005.1 No.052


 ブッシュが最初はアフガニスタンに、つぎにイラクに戦争を仕掛けてからずっと、僕のなかにわだかまっているものがある。アメリカがあれほどにも無法なことを、あれほど徹底的にやっているのはなぜか? 新聞に出てくる言葉でいえば、その一方的で単純な単独行動主義のほんとうの理由がよくわからないのだ。
 なんだかんだいっても、石油利権のせいだろう、とはじめはおもっていた。テキサスのエネルギー資本がブッシュやチェイニー副大統領のスポンサー筋だということは周知の事実だ。チェイニーがかつてかかわっていた投資ファンドが、空前の利益を上げたという話も聞いた。人間は建前と本音の二重存在だから、大義の仮面をかぶせた経済的利己主義を動機と見るのはそんなに不自然なことではない。しかし、たんに石油利権がらみであったとしたら、もっとコストのかからないやり方がいくらでもあったろう。まるで、いじめっ子がいじめられっ子を衆人注視の前でいたぶるようなやり口ではないなにかが選択できたはずだ。
 でも、ブッシュはそういう選択をしなかった。そして、アメリカ国民の半分プラス・アルファがブッシュのやり方をいまでも支持していることが、11月2日の大統領選挙であきらかになった。いったいどうして?戦争の口実になった大量破壊兵器は存在しなかったことがバレているし、フセインとオサマ・ビン・ラディンのあいだに関係があった証拠がないこともすでに暴かれている。それでも、いまのやり方で押していけ、と民の声はいった。とすれば、アメリカがいまなおイラク戦争を継続している理由に、そしてひいてはイラク侵略を決定したそもそもの理由に、大量破壊兵器でもアルカイダでもないなにかがなければならない。論理的にはそうなる。アフガニスタンであれイラクであれ、そこを植民地にしたりアメリカのカイライ政権の地にしなければ、やっていけない国ではないのに、すでに2000人以上の米兵を死なせてまで、そして何兆ドルという財政負担に耐えてまで、アメリカがイラクにこだわる理由はなんなのか、そのほんとうのわけが呑み込めないでいるのだ。
 その理由がなんであれ、アメリカの行っていることは明瞭な国際法の違反であり、武力をもってしての内政干渉だから、近代的な国際社会の理念そのものをブチ壊すものでしかない、と批判することはたやすい。そして、それゆえにイラク戦争に反対するのは当然のことだとおもうし、ま、それが現代の常識だ。イラクではテロリストではない多くの婦人や子ども、病人などが悲惨な死に方をしてもいる。僕ももちろん、その常識にくみするが、フランスの大統領やドイツの首相が同じことを理由にして反対しても、ブッシュは耳も貸さなかった。そして、アメリカ国民の半分プラス・アルファがそんなかれに拍手を送った。
 ということは、ブッシュやブッシュに同調するアメリカ国民は、国際法とか民族国家の独立性の尊重とかいう近代的常識を超えた、なにかもっと大きな理由を持っている、とかんがえるほかない。それは、かれらにとっては、そういう近代的常識なぞ問題にもならないぐらいにもっと重要ななにかであるはずだ。
 神なのか、とおもう。たしかに、ブッシュはしばしば福音主義者よろしく神を口にする。イラク攻撃を決断する際も、最後はひとりで神に相談した、と告白しているぐらいだ。もちろん、本当に神と対話したわけではなく、みずからが信じる神の倫理と対話したということだろう。僕たちの近代的常識を軽々と超えてしまうぐらい大きな倫理と。
 その倫理は、ブッシュのスピーチにあらわれたかぎりでいえば、イラクの人々の自由と民主主義のためにたたかえ、というものだ。たたかいのきっかけがなんであったにしても、その大義は絶対善だから、最後までたたかうことが正しいし、最後までたたかってイラクを「解放」しきることが、世界とアメリカをより安全にし、「自由と民主主義の国、アメリカ」の使命をまっとうすることになる、というまるでウソのように無邪気で理想主義的なものだ。
 そう語るブッシュのスピーチは、美しいほどに感動的だ。かつて、僕は左翼活動家として、自由と民主主義をいのちをかけてもいいとおもえる価値として信じ、鼓吹してもいたが、ブッシュのスピーチを聴いていると、そのころのじぶんの口ぶりがおもいだされる。
 大きな理想や大きな道徳、大きな倫理は、小さな理想や小さな道徳、小さな倫理を破壊して恬淡、悔いるところがない。大きな理想、大きな道徳、大きな倫理は、それゆえ批判されなければならない、とかつての大道徳主義者はおもう。(鈴木正文)
 
 
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