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VW的スポーツカーとは、どういうものか?
本誌編集長、鈴木正文の「新・自動車評論」
第18回 フォルクスワーゲン・シロッコTSIとR


VOLKSWAGEN SCIROCCO TSI AND R
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VOLKSWAGEN SCIROCCO TSI AND R
やればできる、の証拠。


堅実な実用車メーカーのイメージが強いフォルクスワーゲン。
しかし、シリアスなスポーツカーはつくれるのか?2台のシロッコを連ねて、そのエンジニアリング力を問う。
文=鈴木正文(本誌) 写真=柏田芳敬



VOLKSWAGEN SCIROCCO TSI AND R
フォルクスワーゲン・シロッコTSI&R
なぜかベントレーを想う

 これほどとはおもわなかった。いかにレースを意味するRのバッヂ持ちとはいえ、シロッコRがこれほど鋭いクルマだったとは! そしてまた、これほどスムーズでリラックスできるクルマだったとは! サイズも価格もポジショニングもまったくちがうけれど、このミドル・サイズの、華のないドイツ市民的スポーツ・クーペのステアリングを握りながら、僕はなぜか新型ベントレー・コンチネンタルGTクーペを想起していた。その強烈度と安寧度の並立的統合のみごとさが、フォルクスワーゲンの高貴な子会社の、最新大型スポーツ・クーペをドライブしたときの興奮を呼び起こしたのだ。この2台には、強刺激と甘美なくつろぎの両方を、そのどちらをも損じることなく徹底的に享受させようとするドイツ的カー・エンジニアリングの、強欲なまでの意志があり、その果実がある。そうおもったのだ。
左がR、右がTSIの2台のシロッコ
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左がR、右がTSIの2台のシロッコ。2575mmのホイールベースの上に、4255×1820(R)または1810(TSI)×1420mmのボディが載る。トレッドはRもTSIも前1555/後ろ1560mm。車重はRが1410kg、TSIが1340kg。Rは235/40R18を、TSIは235/45R17を履く。R515万円、TSI348万円。
 僕はあるとき、ベントレーの本拠地であるイングランド中部のクルーの田舎道で、コンチネンタルGT(旧型)を開発したドイツ人チーフ・エンジニアの運転するコンチに同乗したことがある。かれはむろんVW出身で、ところどころ濡れて滑りやすく、センターラインもないナローな田舎道を、まるで気が触れたみたいに飛ばした。シュアな運転ぶりだったから恐怖にすくむことはなかったけれど、ここまで飛ばすのか、と一驚したことを覚えている。もし、次のブラインド・カーヴから、アラビアのロレンスの乗るブラフ・シューペリアが飛び出してきたら、ロレンスは何十メートルも弾き飛ばされてしまうだろう、とふと思った。エンジニア氏は、コンチGTの実力をテストする以上に、ファスト・ドライヴの快楽を徹底的にしゃぶり尽くしていた。これがドイツのカー・エンジニアか、と僕はおもった。
 シロッコRを山のなかであのときのかれみたいに飛ばしているとき、このシロッコの背後にも、かれみたいなドイツ人エンジニアがいるにちがいない、という思いが頭をかすめた。ファスト・ドライヴの快楽を徹底的にしゃぶり尽くす、そんな人によってつくられたクルマだ、と僕の体性感覚がいっていた。

スポーツカーとは?

 最初に乗ったのは、シロッコ・シリーズのボトムを受け持つ1.4リッターのTSIツインチャージャーを搭載する348万円の個体で、それに乗っているあいだは、それより167万円も高価な515万円のRは無用の長物かもしれない、とかんがえていた。1.4TSIのシロッコは、それぐらいいい感じのスポーティ・クーペだった。
 シロッコが現行ゴルフと共通するプラットフォームを有することは知られる通りで、それは2575mmのホイールベースが両車共通であることからもわかる。しかし、じっさいにはシロッコとゴルフは別物だ。
フォルクスワーゲン・シロッコTSI&R
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 というのも、シロッコのほうがトレッドがずっとワイドで、しかも、ゴルフのフロントのトレッドが、スタビリティを優先してリアのトレッドより広いのと反対に、シロッコではリアがフロントより広い。ホイールベースがおなじでスタンスが広いぶん、コーナーでの踏ん張りはシロッコが一枚上手であるだろうし、そのうえ、リアのトレッドがフロントをしのぐシロッコは、コーナーでアンダーステアが出にくい成り立ちになっている。フロント・エンジン、フロント・ドライブで、重量配分も前65%、後ろ35%とフロント・ヘヴィではあるけれど、シロッコのシャシー設計は積極的にコーナリング・マシン志向だ。そこがゴルフと根本的にちがっている。
 じっさい、ゴルフもふくむ並みの乗用車より、シロッコがずっとスポーティなことは、わかる人が乗ればわかる。基本的な事柄として、まず重心高が圧倒的に低い。シロッコの1420mmの全高はゴルフより60mmも低く、1810mm(Rは1820mm)の全幅は、ゴルフの40〜50mm増しだ。そのうえで、シート高をいちばん低く調整すると、ドライバーはほとんど地面にじか座りするような感覚になる。スポーツカー・ポジションそのもので、地震のときに低い階のほうが高い階より揺れないように、低く座るドライバーの姿勢は、ステアリングを切っても、ブレーキを強く踏んだり、スロットルを一気に踏みつけたりしても、動揺することが少なく安定している。そもそも、クルマじたいのローリングとピッチングが小さい。より固められたサスペンションも寄与しているが、低重心&ワイド・トレッドのボディ&シャシーゆえだ。スポーツカー・ドライブの醍醐味の半分は、クルマの基本的な動きのこうした資質に由来する。そして、Rの256psにたいして160psしか発揮しない1.4TSIのモデルであっても、この点ですでに、スポーツカー・フィールを味わわせてくれるのだ。



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