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GMの大黒柱シボレーは今年で創業100周年。
本拠地デトロイトに行って、その勢いのよさに圧倒された。


Chevrolet Volt/シボレー ヴォルト
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Chevrolet Volt



ヴォルトに驚いた!


『すべての財布とすべての用途に叶うクルマ』を標榜して、GMの主役を担ってきたのがシボレーというブランドである。経営破たんから急速な勢いで回復し、いま再び世界王座を狙う巨人として攻めに転じたシボレーは、今年100周年を迎えた。それを記念するメディア・イベントへ参加する機会を得た。
Chevrolet Volt/シボレー ヴォルト
文=齋藤浩之(本誌)
取材協力=ゼネラルモーターズ・ジャパン



 驚きの連続だった。シボレーのヴォルトは驚きのかたまりのようなクルマだ。正直に白状すると、僕はハイブリッド・カーが好きでなかったのだけれど、ヴォルトなら欲しいと思った。とても魅力的なクルマだ。
 ヴォルトは2011年モデルとして発売されて、これまでアメリカ合衆国の7州でのみ限定的に販売されてきたのだけれど、近々、これが50州にまで広げられる。大々的に売り出さなかったのは、GMが慎重に事を進める方針を採ってきたのと、自社生産する動力用バッテリー・ユニットの生産量が限られていたからである。GMはバッテリー・ユニットが安定的に量産できることを検証し終えて、その生産能力を大幅に引き上げたので、北米ほぼ全州での展開がいよいよ始まることになった。いよいよこれから本格的な進撃開始という状況にある。

Chevrolet Volt/シボレー ヴォルト
Chevrolet Volt/シボレー ヴォルト

空力一辺倒にならずに古典的な自動車のよさを一部残し、居住性を犠牲にしなかった形。、効力係数はCd=0.29にとどまるものの、おかげで室内は広く快適。荷室容量も300リッターある

Chevrolet Volt/シボレー ヴォルト
Chevrolet Volt/シボレー ヴォルト

操作系にとまどう部分はひとつもない。万人のためのクルマを作るシボレーの良さの1つ。パッと見にはフューチャリスティックな計器パネルも判読しやすい。それでいて楽しい。

クルマのデキがいい

 驚いたのは、ヴォルトが動力源云々を抜きにして、クルマ全体のできが素晴らしく良かったことだ。スッと動き出してすぐにわかるクルマの確かさとでもいえばいいのか、どこぞの国の量産ハイブリッド・カー群とは比較する気にもなれないほどよく開発されている。純電動アシスト式のステアリング・フィールも、ハンドリングも、乗り心地も、動力性能も、制動性能も、居住性も、荷室容量も、申し分ない。それは、ファミリー・カーとして信頼を寄せるに値する空間設計と扱いやすさを備え、しかも、足取りは確かで、走らせて楽しく、近未来的な乗り物に乗っている面白さも味わわせてくれる。
デトロイト郊外ミルフォードにあるGMの広大なプルービング・グラウンドだけでなく、デトロイトの市街地やフリーウェイでも運転することができた
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デトロイト郊外ミルフォードにあるGMの広大なプルービング・グラウンドだけでなく、デトロイトの市街地やフリーウェイでも運転することができた。素晴らしい出来栄えだ。
 シボレー・ヴォルトの北米での価格は4万ドル強で、政府による補助金制度を使えば(計7500ドル)、3万3000ドル、現時点での為替レートで邦貨換算すれば、250万円ほどで買えてしまう。ふだん人を羨むことはほとんどないのだけれど、それを知った時ばかりは、北米に住んでいるひとをうらやんだなぁ。

リーフ+プリウス?

 シボレーはヴォルトをEV(電動自動車)だと主張している。じじつ、ヴォルトは200kg近い重さのリチウム・イオン電池を積んでいて、バッテリーの蓄電量が下限(耐久性を重視して安全率を大きく見込んだ制御が入る)に達するまでは純EVとして走る。航続距離は40km〜80km(EPA=アメリカ環境保護局の認定値は56km)。北米の平均的な通勤往復距離を余裕をもってカバーする。
 ところが、ヴォルトは35リッターの燃料タンク(レギュラー指定)を抱えていて、1.4リッターの4気筒ガソリン・エンジンを積んでいる。エンジンの主な役目は駆動用モーターとは別個に備える発電用大型ジェネレーターを回すことにある。蓄電量が下限に達すると自動的に始動して強力に発電し、バッテリーが使用下限を下回らないように充電を行いながら、前輪の駆動用大型モーターに電力を供給する。つまり、ここでヴォルトはシリーズ・ハイブリッドになって、欠電の心配なしに航続距離をグンと伸ばす。EPA値でも610kmに達する。シボレーがヴォルトを航続距離拡張型(レインジ・エクステンディド)EVと呼ぶ所以である。
 しかし、である。ヴォルトはそこで終わらないのである。蓄電量が下限に達するまでは純EVなのだけれど、変速機を持たず減速機だけを介して駆動する一般的なEVと違って、これは遊星ギア・セットを使って、駆動用電動モーターと発電用モーターとガソリン・エンジンをつないでいて、しかも、それらをつないだり離したり
Chevrolet Volt/シボレー ヴォルト
(上)シボレー・クルーズ用のプラットフォームをベースにするので、1.4Lエンジンとモーター群を繋いだドライブ・ユニットはエンジン・ベイにぴたりと収まる。
(下)総計288枚のセルを使うリチウム・イオン・バッテリー(16kWhの内10.4kWhのみ使用)は、単層110V(北米)の家庭用電力を使って、8時間で満充電できる。
できるように3組のクラッチを備えている。その仕組みで何をするのか? ヴォルトは発進も含めた低速走行時や急加速時には、最高出力150ps(110kW)の主駆動モーターのみで走るが、高速走行時には発電用のジェネレーターを第2の駆動モーターとして参加させ、遊星ギアの特性を利用して主駆動モーターの回転を下げるのだ。宿命的に高回転時に効率の落ちる電動モーターを効率よく使うための手法である。
 この駆動モードの自動切換えは蓄電量が下がってガソリン・エンジンが介入している際にも起こる。そして何が起こるかというと、主駆動モーターとガソリン・エンジンのクランク軸出力が遊星ギアで合成されて、パラレル・ハイブリッドになるのだ。ジェネレーターは発電に回り、主駆動モーターに電力を供給する。
 実際には、外部の他者には解析不可能といわれるほどに複雑なモード制御が行われていて、EV−シリーズ・ハイブリッド−パラレル・ハイブリッドの間を行き来するらしい。 特許がらみもあって、あまり詳らかにされてこなかったので、巷では「ヴォルトっていったい何なのよ」という疑問が出たりしたのだ。
 ヴォルトは、リーフでもありプリウスでもある。1台2役をこなすインテリジェント・エコ・カーなのだ。
 巨大な自動車市場を抱えながら事実上の鎖国を続けてきた日本へは、目ぼしいクルマも輸入されなくなる時代が来ようとしている。そんな状況だから、GMのヴォルト日本導入の優先順位はひどく低くて当然と考えるべきなのかもしれない。それでも、ヴォルトにはこの国の自動車好きに強く訴えるものがある、と思う。

Chevrolet Volt/シボレー ヴォルト
Chevrolet Volt/シボレー ヴォルト



上左と上:主駆動モーター(内部に遊星ギア・セットを配置)→発電/副駆動用モーター→4気筒ガソリン・エンジンと、一直線上に配置される。クラッチを計3個備える。左:シボレー・ヴォルトの動力源のレイアウト。重いバッテリー・ユニット(197kg)はT字型に組み上げられ、車体の中央に配置される。その後に燃料タンクが置かれる。

シボレー・ヴォルト
純電動の低速走行時(発進や急加速時含む)

シボレー・ヴォルトのドライブ・ユニットは2つの電動モーターと3つのクラッチとガソリン内燃機関と1組の遊星ギア・セットで構成されている。

純電動の低速走行時(発進や急加速時含む):リチウム・イオン電池に蓄えられた電気のみを使い、主駆動モーター(110kW=150ps)だけで走行する。
純電動の高速走行時
航続距離拡張モードの低速走行時

純電動の高速走行時:主駆動モーターに加えて発電用ジェネレーターが副駆動モーターとして介入し、主駆動モーターの回転を下げて効率を上げる。

航続距離拡張モードの低速走行時:蓄電量が底を突くと、エンジンが介入してジェネレーターで発電し、充電しつつ主駆動モーターに電力を供給。
後続距離拡張モード高速走行時
後続距離拡張モード高速走行時:主モーターは引き続き駆動を担いつつエンジンからの直接動力伝達を支える役目も果たす。充電も適宜行われる。



(2011年12月号掲載)
 
 
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予めご了承くださいますようお願い申しあげます。



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