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海外試乗2連発! その(1) フォルクスワーゲン・アップ!にローマで乗る!


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嵐を呼ぶ小さな小さなVW


2018年までに生産台数世界一のメーカーになると宣言して驀進中のVWグループ。
その切り札となるモデルは、なんといちばん小さなスーパー・スモール・カーだった。まずは尖兵となって投入された3ドア・モデルに、小型車のメッカ、ローマで乗った。
文=齋藤浩之(本誌)
写真=フォルクスワーゲン・グループ・ジャパン



 天気予報は早朝から嵐になると告げていた。はるばるローマまでやってきて、嵐ぐらいで撮影をやめるわけにはいかない。意を決して、カメラマンの望月さんと、どしゃ降りのローマへの街へup!で漕ぎ出した。
 空が明るくなりはじめるとともに、雨足はどんどん強くなってきた。ワイパーを高速側にしても視界がおぼつかなくなる。古い石畳の上を僕らふたりを乗せて走るup!はしかし、確かな足取りをみせて走り続ける。ガタガタブルブルとは無縁。タララララッと石を踏む軽やかな音を聞かせながら平然と走る。3ドアだから、ボディ剛性では有利だろうにしても、大したものだ。軽く作ることに意を注いでの結果だから、なおさらだ。
 この試乗会に用意されたup!は新開発の1リッター3気筒自然吸気ガソリン・エンジンを積むモデルで、チューン違いの60psと75psがある。僕らが乗っているのは75psの方だ。変速機は今のところ5段マニュアルのみ。このMTと同じ内部機構を使って同時に開発されたシングル・クラッチの2ペダル仕様も設定されているが、試乗会にはMTしかなかった。フォルクスワーゲンはトルクコンバーター付きATやDSGの設定は考えていないようで、シングル・クラッチ仕様の変速機だけでいくみたいだ。
 とりあえずMTでどうか、ということをお伝えするしかないのだけれど、この新しい小型軽量の5段ギア・ボックスはじつによくできている。シフト機構、クラッチともども操作は適切に軽く、素晴らしくスムーズに変速できる。安物感はない。
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 エンジンも印象がいい。吸気側カムシャフトに作用位相の可変装置を組み込んで、低中速回転域のトルクと高回転域でのパワーを両立しているこの1Lエンジンは、アイドリングのすぐ上、1000rpmをちょっと超えたあたりから十分実用になる健康的なトルクをつむぎだす。体感するトルク・カーブはフラット。2速はおろか3速でも1300rpm辺りを使えるのにも驚く。5段変速機の2速から上は燃費を考えて、あるいはアウトバーン上での使いやすさを考えてか、かなりハイギアードに設定されている。2速ですら6000rpmのリミットまで回すと85km/hに達する。それを考えると、この柔軟性は褒められていい。自然に2000rpm以下の領域を多用することになる特徴的なギアリングなのに、ピックアップ特性が厳しく試されるローマの混雑した街中でも、不満が出ない。朝の通勤で込み合うバチカンの周辺でも、すばしこいローマっ子に伍してストレスなく走ることができる。
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中高速回転域にいちばんおいしいトルクバンドがあるので、ハイギアードな5段変速機との組み合わせが本領を発揮する高速巡航は得意種目だ。1エンジン(75ps)を使い切る爽快感が味わえる。50%偏平の16インチ・タイヤを巧く履きこなしていて、乗り心地、操縦安定性ともに優秀。軽快なのに、サイズを忘れさせる安定感がある。荷室の容量はクラス最大級。上級クラスに近い大きさ。
 しかも、そんな低回転域を多用しても、イヤな振動はちっとも出ない。完全に新設計してバランスシャフトも外した3気筒エンジンは、エンジン本体もエンジン・マウントもよくできていて、とくに意識するような振動が出ない。独特のビートが利いた軽快な排気音を3気筒のそれと気づかなければ、4気筒と思い込む人もいるのではないだろうか。パワートレインはとにかくスムーズだ。
 脚もよく仕付けられている。しっかりとしたボディの下で、よく動いて仕事をしてくれる。フロントにストラット、リアにH型トーション・ビームという前輪駆動小型乗用車の定石どおりのシンプルな構造をとるサスペンションは、硬くなく、けれどフワつくこともなく、上屋の姿勢をフラットに保ってくれる。よく煮詰められたセッティングだと思う。
 このクルマはいちばん高いトリムのホワイトup!だから、専用デザインの16インチ軽合金ホイールに185/50R16Tというハイトの低いタイヤを履いているのに、超偏平タイヤのクセもよく押さえ込まれている。路面の傾斜変化に過敏じゃないし、純電動アシスト機構付きのステアリングのフィールもすっきりしている。爽やかな感触だ。
これといってクセのない爽やかな走りと、詰めに詰めたパッケージングが実現した快適な居住性をあわせもっているのがup!の魅力だ
これといってクセのない爽やかな走りと、詰めに詰めたパッケージングが実現した快適な居住性をあわせもっているのがup!の魅力だ。2012年に出る5ドア型であれば、ポロの代わりを務めることだってできそうだ。VWは意欲満々で日本市場へも投入するはずだから、期待して待つ甲斐ありだ。
隙のない仕上がりの超小型車

 前の日、細部写真の撮影とロケハンを兼ねて、半日ほど僕らはup!を走らせた。ステアリング・ホイールを握ったのは僕ではなくて河口まなぶさんだったから、僕は後席と助手席をいったりきたりしながら、じっくりと乗り心地を試すことができた。
 わるくないどころか、びっくりものの良さだった。後席でも硬いと意識することはなく、よほど酷い路面不整に出会わないかぎり、突き上げをくらうこともない。シート・サイズも決して小さな間に合わせのものではなく、これなら数百kmの移動にも耐えられるなと思った。
 後席への乗り降りを容易にするために前席に組み込まれているウォーク・イン・リクライニングの操作レバーが、バックレストの肩ではなくて、座部の根元にあるのが少し不便に思ったけれど、ドアが大きいこともあって、間口は十分に大きくとれるので、乗り降りそのものは苦にならない。使い勝手と機構合理化(低コスト化)の兼ね合いは、ずいぶんと考えて妥協点を探ったのだと思う。
 撮影機材を飲み込んだ荷室にも感心した。全長がわずか3.54mしかない超小型車であるにもかかわらず、ポロ・クラスと変わらない容量が確保されている。奥行きは短いが、深いのだ。調べると251リッター。全長が4m近いポロの280リッターと比べても遜色がない。床板は取り外して設置する高さを変えられるようになっていて、後席の背もたれを前倒しする際には、高い位置に嵌めると、床面が段差なくつながる。日本車なみの芸の細かさも持ち合わせている。
 日本車といえば、すでに国内乗用車市場の3割を超え、遠くない将来に4割どころか5割にも達するのではないかという予測まで出ている軽自動車を僕らは知っている。ほぼ日本国内専用車であるためにヨーロッパでの認知度は低いが、近年の軽自動車のデキのよさは、国際市場に出しても十分に通用する高い水準にある。up!は、そんな軽自動車と比べても、隙のない仕上がりぶりが印象的な超小型車だ。
 up!が照準を合わせるAセグメント市場ではイタリアやフランス勢が幅をきかせてきた。この市場は今後4年間で20%もの成長が見込まれ、視野を全世界に広げると、40%にも達する市場拡大が見込まれている。up!がそこに大きな嵐を呼ぶのは、まず間違いのないところだろう。

Volkswagen up!/フォルクスワーゲン・アップ!
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Volkswagen up!/フォルクスワーゲン・アップ!
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ルポでの経験を踏まえ、VWが満を持して投入した超小型車。例えばドイツでは1万ユーロ未満からという低価格も武器になる。安い方から、take up!、move up!、high up!と3種類のトリムが用意される。写真のクルマはhigh up!をベースに設定された特別仕様のwhite up!(black up!もある)で、16インチ・ホイールをはじめとする専用の装いが織り込まれる。ダッシュボードのボディ色を反映した化粧パネルも標準で備わる。


フロント・シートはヘッドレスト一体のハイバック型が全モデルに標準
フロント・シートはヘッドレスト一体のハイバック型が全モデルに標準。オプションでレザー・パッケージが選べるあたりにただの下駄グルマでは終わらせないぞというVWの意気込みが感じられる。座部脇後端のリクライニング調整レバーが、ウォーク・イン機構の操作も兼ねる。後席は180cmぐらいまでなら窮屈な思いをしないですむ空間が確保されている。乗り心地もかなりいい

white up!(5MT)の75ps仕様の車両価格はドイツで1万4300ユーロ
white up!(5MT)の75ps仕様の車両価格はドイツで1万4300ユーロ。市街地緊急自動ブレーキやエアコン、ナビ(簡易型)を加えても1万6000ユーロ強だから、今の為替レートなら170万円ほど。2012年には5ドア型も加わる。日本への輸入はそれが出てからということだそうだ。価格は戦略的なものになるはずだ。

新開発の3気筒1リッター自然吸気エンジンは非直噴
新開発の3気筒1リッター自然吸気エンジンは非直噴。60psと75ps仕様がある。5段変速機も新開発。2ペダルのMTと、これを2ペダル化した自動MTが設定されている。up!の3.54mという全長は奇しくもフィアット500やパンダと同じだが、実用性ではup!に分がある。後席も荷室もup!の方が広い。up!には時速30km以下で走行中に作動する緊急自動ブレーキがオプション(市場によっては標準)で装着できる。体験テストではものの見事に働いて、衝突を回避してみせた。

フォルクワーゲン up!
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 フォルクワーゲン up! (75ps仕様)
駆動方式フロント横置きエンジン前輪駆動
全長×全幅×全高3540×1641×1478mm
ホイールベース2420mm
トレッド 前/後1428/1424mm
車輌重量(DIN)929kg
エンジン形式自然吸気直列3気筒DOHC4バルブ
総排気量999cc
最高出力75ps/6200rpm
最大トルク9.7kgm/3000〜4300rpm
変速機5段MT(もしくは5段自動MT)
サスペンション形式 前マクファーソン・ストラット/コイル
サスペンション形式 後トーションビーム/コイル
ブレーキ前/後通気冷却式ディスク/ドラム
タイヤ前/後185/50R16 81T(white up!/Blacl up!)
日本での発売時期2012年(5ドア型の発表後)




(2012年1月号掲載)
 
 
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バックナンバーページの定価表記について
「ENGINE 2014年3月号」以前の定価表記は、発売時の定価になっております。
予めご了承くださいますようお願い申しあげます。



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