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齋藤浩之が考える「ニッポンの商用車の実力」


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(写真上)事実上、商用用途専用に、最低10年は継続生産することを目標に開発されたトヨタ・プロボックス。合目的的な日本車の代表選手の1台。割り切れば、乗用車として立派に使える。

(写真下)モデルチェンジ後すでに8年が経過して旧さを感じさせない1ボックス商用車の雄、ハイエース。これもまた合目的的ということではライバル不在の1台。だからこそツブシが利くのである。


いちばんよくできたニホンシャ


日本には「ニッポンの底力」を知らしめるクルマがいくつもある。
日本の自動車メーカーが得意とする合目的的なクルマづくりが生きた小型商用車である。
しかし、底力は、もうひとつの別の種類のクルマにこそ生かされなければならない。
文=齋藤浩之(本誌) 写真加工=小野一秋


トヨタ プロボックス前

トヨタ ハイエース前
願いを満たす日本車がなかった

 10年前、トヨタのプロボックスを買った。発売直後にTVのCMで知って、すぐに近所のディーラーへ駆けつけた。翌日には契約書にハンコを押した。以来、プロボックスは家人の生活に欠かせない足として今にいたるまで働き続けている。
 オドメーターの数字は9万kmほどでしかないが、この間、故障は皆無。交換したのは油脂類と消耗品のタイヤと12Vバッテリーとワイパー・ブレードのみ。ボディはほとんどヤレることもなく、脚のダンパーが少々疲れを見せているだけである。
 プロボックスを買う前まで、家人はすでに購入から13年目に突入したフィアットのティーポという、ゴルフ級の2ボックス・カーを日常生活の友にしていた。そのティーポとて、故障が原因で自走できなくなったことは1度としてなかったけれど、そろそろお疲れのようなので、次のファミリー・カーをという話題が出始めていたときに、プロボックスが現れたのだった。
 わが家のファミリー・カーはプロボックスだ。家族4人での移動にもう1台のランチア・カッパを使ったことはただの1度もなく、どこへ行くにもプロボックスが任にあたる。里帰りなどの片道数百キロの長距離行では僕がステアリング・ホイールを握ることもあるけれど、まずたいていは、家人が手綱を握る。
 家人からプロボックスをほかのクルマに変えたいという声を聞いたことはない。プロボックスに愛想を尽かしてなど全然いないのである。
 そもそもどうしてプロボックスにしたのかといえば、理由ははっきりしていた。ティーポの後釜として家人が求めていた要求に応えられる日本車が1台もなかったのだ。
 家人いわく、ボディのサイズはティーポより大きくなっては困る。車庫から出るときに狭い接面道路の電柱が邪魔だから、同じくらい小回りが利かなくては困る。荷室はもっと大きい方がいい。高速道路を安心して走れるクルマであることが必須。燃費がわるくては困る。何事かあった時に自分で対応できるに越したことはないから、できれば国産車がいい。要求はそれだけでしかなかった。
 ティーポは全長4m 。全幅1.7m 。ホイールベース2.54m。実用燃費は約10km/リッター。荷室容量は350リッターで、後席を畳むと、子供布団が敷けた。ティーポの空間利用効率はトップ級だったから、それを超えろというのは厳しい要求だったかもしれないが、日本の当時の4m級2ボックス乗用車に、願いを満たすクルマは、ただの1台もなかった。
 そこへ現れたのがプロボックスだった。カローラ・バンの後継車として開発されたそれは、全長が20cm長くなることを除いて、家人の要求をすべて満たしているように思えた。不安は、乗り心地だけだった。2人でディーラーへ赴き、家人にステアリングを握らせ、僕は後席に陣取って、ディーラーの周辺を走らせてもらった。家人はOKだという。後席の乗り心地は少々厳しかったが、目を瞑れる範囲にあると割り切った。わが家へやってきたプロボックスは、期待を上回る活躍を見せた。小回りは利くし、大量の荷物を平然と飲み込むし、高速道路での速さ、安定性ともに文句ないし、燃費は少なくとも3割は改善されたし、信頼性は抜群で、消耗品交換のコストも低かった。不満は硬い乗り心地と少し曖昧なステアリングの感触だけだった。


欲しくなるクルマを

 突き詰めて考えると、クルマには2種類しかない。必要に迫られて道具として買うクルマと、欲しいという衝動に突き動かされて求めるクルマである。プロボックスのような商用車はもちろん前者で、徹底的に目標が明確化されて迷いなく作られている。同じように街の景観の一部と化したハイエースもまた、商用車であることに徹して作られたクルマだ。
 目的がはっきりしていて、しっかりと定まった目標にまっしぐらに突き進んだ時、日本の自動車メーカーは、その最大の強みを発揮する。生産現場の都合で乗用と商用は兼用で、などといっていると、どっちつかずの半端なクルマができてしまうし、ちゃらい商品企画から生まれた乗用車もまた、ろくな結果を出せはしない。それが現実となっている。
 道具的な理由に関係なく、ひとにただただ“欲しい”という衝動だけで買ってもらえるクルマ。日本人の生活の足となった軽自動車や、母性的ファミリー・カーとして足場を固めたミニバン以外は、すべからく心を突き動かすクルマとならなければ、生きる残る道はない。それが生み出せなければ、ニッポンのクルマ作りを支える底力は、商用車にしか生かされずに、終わってしまうだろう。


トヨタ プロボックスバン後ろ

トヨタ ハイエース後ろ





(2012年6月号掲載)
 
 
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