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スモール・フレンチ、1年3カ月の任期を終えて退役す。


RENAULT LUTECIA 1.6

53号車
RENAULT LUTECIA 1.6
新車価格 209万8000円
導入時期 2010年11月
走行距離 2万7470km


いつの間にか家族になっていた。


いつも側にいるのが当たり前だった。いなくなってはじめて、そのありがたさに気がつく。ルーテシアはそんなクルマだった。

文=上田純一郎(本誌) 写真=柏田芳敬


 2010年10月29日から約1年と3カ月。53号車は任期を終えて去って行った。
 ぽっかりと空いた駐車場を見て、「るーてしあ、いなくなっちゃったねー」。2歳の息子が何気なくつぶやいた。物心がついて以来ずっとそばにいたからか、彼にとって53号車はすっかり家族の一員になっていた。それは担当も同じだ。いなくなって寂しいというより、違和感がある、という感じ。リポート期間中、ルージュ・ディナという名の、ちょっとくすんだ赤色のボディを目にしない日はなかった。いつもそこにいるのが当たり前になっていた。
 思い直してみると、ルーテシアのインターフェイスの素晴らしさは、日々の生活に自然と溶け込むのに大きく貢献していたと思う。ステアリング、ペダル、シート、そして車体の相互の位置関係は、とても優秀だった。おかげでほかのクルマに乗ると、身体を捩って座っているのがよくわかるようになった。いつのまにか、53号車なしではいられない身体になってしまった。ステアリング・コラムは角度調整のみ可能で、伸長方向の調整はできない。最初はもう少しステアリング・ホイールが手前だったらなぁ、と思ったけれど、これはすぐに慣れた。
 荷室は通常時で288リッターと容量はさほど大きくないが、スクエアでデッド・スペースがほぼないのがミソだ。5人乗車のままシートを倒すことなく、16インチの折りたたみ自転車と大きなチャイルド・シートをすっぽり飲み込んだのには驚いた。
 3953kmだったオド・メーターは返却時に2万7470kmまで達した。飛び石に見舞われてフロント・ガラスを交換したが、そのタイミングで東日本大地震が起こったため、3週間ほど稼動していない。この期間を除くと、1カ月あたりの走行距離はおよそ1600kmだった。 高速巡航時の燃費の良さは、ルーテシアの美点の1つだ。たいてい13km/リッター以上で、最高で16.2km/リッターをマークした。満タン法による平均燃費は11.7km/リッター。エコランに徹すれば車載コンピューター上の平均燃費は20km/リッターに届いたけれど、夏場には9km/リッターを下回ることもあった。それでも、右足の力を緩めて走ることは、なかなかできなかった。自分の意のままにパワーを出し入れできるマニュアル・トランスミッションの誘惑に抵抗するのは、けっこうな苦痛だったのだ。


やっぱり、これしかない

 リポートが始まった当時は、このクラスの5ドア・ハッチバックで手動変速の組み合わせが選べるのはルーテシアだけだったけれど、現在はミニ・クロスオーバーという選択肢もある。けれど、価格は一番安価な ワンで267万2000円。オプションを追加していくとあっという間に300万円を超える。かたやルーテシアは209万8000円。全長4m 強とサイズは近いが、キャラクターはプレミアムとベーシックで正反対だし、ライバルにはなりにくい。そう考えると、いまなおルーテシアは欧州の小型実用車の素晴らしさが味わえる貴重な存在だと思う。代わりになるクルマは、やっぱりない。
 昨年秋の東京モーターショウでルノーのデザインを率いるローレンス・ヴァン・デン・アッカー氏は、今年秋のパリ・サロンでクリオIV、つまり新しいルーテシアがデビューすると発表した。新車で手に入れられる時間は、もう限られている。なくなるとなると、あっという間に姿を消すのが最近のルノーの常だ。気になる人はくれぐれもお早めに。

そこにある幸せ

 普段身の回りにあるものが、どれだけ人を幸せにしてくれているのか。2011年という激動の年をともに 乗り越えたこともあって、53号車は実用的で、乗って楽しく、しかも経済的な道具から、いつしか大事な家族になっていた。返却前に、一緒に写真を1枚撮った。これまで多くのクルマと過ごしてきたけれど、そんなことをしたいと思ったことはなかった。ありがとう。さようなら。

 
 
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