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アカデミー賞で前代未聞の逆転劇



アカデミー賞で前代未聞の逆転劇『ムーンライト』

2月に授賞式が行われたアカデミー賞で、まさかの作品賞に輝いた『ムーンライト』。オール黒人キャストでつくられた低予算の人間ドラマは、なぜ栄冠を勝ち取ることができたのか?
文=永野正雄(本誌)




2月26日に授賞式が行われた第89回アカデミー賞で、作品賞のほか脚色賞、助演男優賞(マハーシャラ・アリ)を獲得した『ムーンライト』。物語の原案となったのはマイアミ在住のタレル・アルバン・マクレイニーの戯曲で、映画の前半に登場する少年と、父親代わりになる麻薬密売人の物語を描いている。本作が長編2作目となる監督のバリー・ジェンキンスは、ベースとなった戯曲の舞台と同じ、リバティ・シティ公団住宅に育った。映画化においても監督は、この危険で荒廃した公団住宅で撮影することにこだわったという。エグゼクティブ・プロデューサーを務めるのはブラッド・ピット。111分。3月31日よりTOHO シネマズ シャンテ他にて公開。
作品賞のプレゼンターに選ばれたのは『俺たちに明日はない』のウォーレン・ベイティ(写真中央)とフェイ・ダナウェイ。ベイティに誤って渡された封筒には、“主演女優賞”エマ・ストーン『 ラ・ラ・ランド』と書かれており、それが間違って作品賞『ラ・ラ・ランド』と発表されてしまった。
 アカデミー賞の歴史に残る大失態は、オスカー像を手にした『ラ・ラ・ランド』のプロデューサーが壇上で謝辞を述べている最中に発覚した。実は作品賞に選ばれていたのは『ムーンライト』で、賞のスタッフが間違った封筒をプレゼンターに渡していたことから、まさかの誤発表につながったのだという。
 前代未聞の逆転劇でアメリカ映画界最高の栄誉を手に入れた『ムーンライト』。だが、歴代のオスカー受賞作と比べても、この作品自体が異例づくしである。
 まず本作の製作費は150万ドル(約1億7000万円)で、製作期間はたったの25日である。『ラ・ラ・ランド』の製作費3000万ドルに比べれば、これがいかに低予算なのかが分かるだろう。
 マイアミの貧困地域に母親と暮らす主人公の成長を、少年期、青年期、成人期の3部構成で描いた本作は、登場人物がすべて黒人で、しかも主人公はゲイという設定である。社会のマイノリティーを描いた、ともすれば観客から見過ごされてしまいそうな小品だが、昨年秋にアメリカで公開されるや状況は一変した。NYタイムズやワシントン・ポストといった一流紙がこぞって最大級の賛辞を贈り、アカデミー賞においても『ラ・ラ・ランド』に勝てる唯一の作品賞候補と目されるようになったのである。
社会的弱者への目線

 この『ムーンライト』の受賞を、“ホワイト・オスカー”の反動と見るムキもある。昨年のアカデミー賞では、演技部門の候補に挙がった16人全員が白人で、これが黒人差別だと批判された。実際、今年のアカデミー賞では演技部門にノミネートされた16人のうち6人が黒人で、2人が受賞。作品賞候補に挙がった9本のうち、3本の主人公が黒人だった。
 だがそんな見方も不要なほど『ムーンライト』という作品には魅力がある。貧困やいじめ、薬物などの問題を描きながらも、社会的弱者への目線はどこまでも優しく、月光に照らし出されたかのような作品全体のトーンもポエティックで美しい。
 最悪の状況に置かれても、ありのままの自分を受け入れ、手探りで生きていく。『ムーンライト』という小さな作品には、こんな強いメッセージがこめられている。それは多様性のある社会を認めようとしないアメリカの現政権に対する、映画からの静かな抗議のようにも感じられる。
 
 
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